パレットナイフで牡蠣のように固くなった絵の具をバリバリとパレットの上で引掻きながら

絵を、石版刷のようにはっきり写している

この一帖の両端へ、それぞれに赤と青の液を塗ると、下方の紙にも赤と青が、ちょうど夏の夜店で売っている花火のぼかしのように移されることであろう。

今でも私の心の底にまざまざと残っている一枚がある。それは八号の風景にかかれたもので、軽川（かるがわ）あたりの泥炭地（でいたんち）を写したと覚しい晩秋の風景画だった。荒涼と見渡す限りに連なった地平線の低い葦原（あしはら）を一面におおうた霙雲（みぞれぐも）のすきまから午後の日がかすかに漏れて、それが、草の中からたった二本ひょろひょろと生（お）い伸びた白樺（しらかば）の白い樹皮を力弱く照らしていた。単色を含んで来た筆の穂が不器用に画布にたたきつけられて、そのままけし飛んだような手荒な筆触で、自然の中には決して存在しないと言われる純白の色さえ他の色と練り合わされずに、そのままべとりとなすり付けてあったりしたが、それでもじっと見ていると、そこには作者の鋭敏な色感が存分にうかがわれた。そればかりか、その絵が与える全体の効果にもしっかりとまとまった気分が行き渡っていた。悒鬱（ゆううつ）――十六七の少年には哺（はぐく）めそうもない重い悒鬱を、見る者はすぐ感ずる事ができた。

抽象画は悪くいえば誤魔化しが利く。たしかなデッサン力を持っていなくとも腕が分らない

無方針で何でもやらかす

嬌然（きょうぜん）と笑って

（七枚のポラロイド写真を）並べた。タロット占いの不吉なカードを並べるみたいに。

電車のなかで自然に肩に頭を寄せられるときの甘い重み。

彼女は楽しそうに笑った。何年か振り、といった笑い方だった。