（気持ちを落ち着かせるために祈りを唱えて）そこにある言葉の響きは彼女の神経を慰撫し、恐怖を戸口で押しとどめ、呼吸を落ち着かせてくれた。

朝日を受けた露みたいに、あっさり蒸発して消えてしまう。

（薬が効く）おれは、歯を喰いしばって詰所を後にし、病室のベッドにもぐり込んだ。怒りが血流の中を異常な早さで巡回していた。このままこの病院を逃げ出してやろうか、という考えが一瞬浮かんだ。　数十秒後に、血流の中のアドレナリンを追いかけるように、ジアゼパム（さっき投薬した抗不安剤）が流入し始めた。それは、とろりとしたチーズのように、ささくれだった脳細胞にからみつき、荒廃した体中の荒れ地をやさしくほじくり返しはじめた。やがて、氷結して節くれだっていた全身が溶けてほぐれ始め、綿のごとく疲れた肉体だけがベッドの上をたゆたっていた。全身が柔毛のマユに包まれる感覚があって、やがておれはとろとろとした眠りの海を漂い始めた。

（気持ちを落ち着かせるために祈りを唱えて）そこにある言葉の響きは彼女の神経を慰撫し、恐怖を戸口で押しとどめ、呼吸を落ち着かせてくれた。

思わず泣きそうになったが、ゆっくりと息を吐いたら自制できた。

薬で痛みを散らす

脳天からつま先にかけて、ジーンとした痺れが突き抜ける

こもるような痛み

痛みは耐え難いというほどではなくなっている。

狂人のような悶（もだ）え

喉がヒリヒリ痛む

息をきって、追いかけて来た

幹子に説明して、弟に告げて、そうしたらこんな異様なことも日常に溶けていくのだろうか。

操り人形のように

職場で人にもまれてすりつぶされて

それは思わず彼の心の中から出た呟きだった。