店は、カウンター越しにライトアップされた観葉植物を眺める 洒落 た店で、その生い茂る緑から漏れる光を浴びて、色々のウィスキーやリキュールのボトルがきれいだった。

（BGM）シェーカーが振られたり、グラスが触れあったり、製氷機の氷をすくうゴソゴソという音がしたりするうしろでサラ・ヴォーンが古いラブ・ソングを唄っていた。

ここは都会の片隅にポツリとたたずむバー。仕事に疲れた子羊達を暖かく迎え入れてくれるお店。

（ショット・バー）私たちはいつも、くたくたに疲れていた。 　青山や麻布の幹線道路ぞいには、そんな都会の水すましたちが疲れた体を休める 溜り場があった。

気怠いジャズピアノが店内に流れていて

（ホテル・オークラ）本館のロビーは広々として天井が高く、ほの暗く、巨大で上品な洞窟を思わせた。ソファに腰をおろして何ごとかを語り合う人々の声は、臓腑を抜かれた生き物のため息のようにうつろに響いた。カーペットは厚く柔らかく、極北の島の太古の苔を思わせた。それは人々の足音を、蓄積された時間の中に吸収していった。ロビーを行き来する男女は、何かしらの呪いで大昔からそこに縛りつけられ、与えられた役割をきりなく繰り返している一群の幽霊のように見えた。

拍手が止み、ピアノの前にすわる。一瞬の静寂の後、ピアノが鳴り出す。

美容院の前を通ると、女たちが白い兜のようなドライヤーをかぶっている。

（古いお好み焼屋の店内は食べ終わった後の）戦争の後のような鉄板を、窓からの午後の陽が照らしていた。

銀座へ出かけて行った。そこでは華ばなしいクリスマスや歳末の売出しがはじまっていた。 　友達か恋人か家族か、舗道の人はそのほとんどが連れを携えていた。連れのない人間の顔は友達に出会う当てを持っていた。そしてほんとうに連れがなくとも金と健康を持っている人に、この物欲の市場が悪い顔をするはずのものではないのであった。