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私は出来るだけ過去に類似の情況を探してみたが、無駄であった。それは記憶の外側の、紙一重のところまで来ていながら、不明の原因によって、中に入り得ないようであった
昇平, 大岡「野火(のび) (新潮文庫)」に収録 ページ位置:34% 作品を確認(amazon)
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忘れる・思い出せない・曖昧な記憶
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前後の文章を含んだ引用
......瞬において、私はやはりこうして歩いていた。異境の不安な黎明を歩くという情況は、確かに私にとって初めての経験のはずであるが、今私の感じている感情は未知ではない。 私は出来るだけ過去に類似の情況を探してみたが、無駄であった。それは記憶の外側の、紙一重のところまで来ていながら、不明の原因によって、中に入り得ないようであった。 事実を思い出すかわりに、私はこういう想起の困難もまた初めての経験ではないこと、近代の心理学で「贋の追想」と呼ばれている、平凡の場合にすぎないのを思い出した。......
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