冬の蠅 とは何か? よぼよぼと歩いている蠅。指を近づけても逃げない蠅。そして飛べないのかと思っているとやはり飛ぶ蠅。彼らはいったいどこで夏頃の不逞 さや憎々しいほどのすばしこさを失って来るのだろう。色は不鮮明に黝 んで、翅体 は萎縮 している。汚い臓物で張り切っていた腹は紙撚 のように痩 せ細っている。そんな彼らがわれわれの気もつかないような夜具の上などを、いじけ衰えた姿で匍 っているのである。
梶井基次郎 / 冬の蠅 ページ位置:0% 作品を確認(青空文庫)
この表現が分類されたカテゴリ
蚊・ハエ
しおりに登録する
前後の文章を含んだ引用
冬の蠅 とは何か? よぼよぼと歩いている蠅。指を近づけても逃げない蠅。そして飛べないのかと思っているとやはり飛ぶ蠅。彼らはいったいどこで夏頃の不逞 さや憎々しいほどのすばしこさを失って来るのだろう。色は不鮮明に黝 んで、翅体 は萎縮 している。汚い臓物で張り切っていた腹は紙撚 のように痩 せ細っている。そんな彼らがわれわれの気もつかないような夜具の上などを、いじけ衰えた姿で匍 っているのである。 冬から早春にかけて、人は一度ならずそんな蠅を見たにちがいない。それが冬の蠅である。私はいま、この冬私の部屋に棲 んでいた彼らから一篇の小説を書こうとしている。 冬が来て私は日光浴をやりはじめた。溪間 の温泉宿なので日が翳 り易い。溪の風景は朝遅くまでは日影のなかに澄んでいる。やっと十時頃溪向こうの山に堰 きとめられていた......
単語の意味
臓物(ぞうもつ)
姿・形・容・態・躰・體・軆・骵(すがた)
腹(はら)
蠅・蝿(はえ)
青黒・黝(あおぐろ)
臓物・・・内臓。とくに食用の動物、鳥、魚などのはらわた。ホルモン。
姿・形・容・態・躰・體・軆・骵・・・1.身体の形。からだつき。人のからだの格好。衣服をつけた外見のようす。
2.身なり。容姿。
3.目に見える、人の形。人の存在。
4.物の、それ自体の形。物一つ一つの全体的な印象。
5.物事のありさまや状態。事の内容を示す様相。
以下の文字は訓読みで、「すがた」と読める。
[形・容・態・躰・軆・體・骵]
2.身なり。容姿。
3.目に見える、人の形。人の存在。
4.物の、それ自体の形。物一つ一つの全体的な印象。
5.物事のありさまや状態。事の内容を示す様相。
以下の文字は訓読みで、「すがた」と読める。
[形・容・態・躰・軆・體・骵]
腹・・・1.ヒトなど動物の、胴の下半部の前面と考えられる側。背(せ)の反対側の部分。また、その内側にある内蔵。
2.(腹の内面にあるものとして)心。考え。感情。気持ち。また、度量や度胸、気力もいう。
3.物の中央の膨らんだ部分。「指の腹」「銚子の腹」など。
4.背に対して、物の内側の部分。
2.(腹の内面にあるものとして)心。考え。感情。気持ち。また、度量や度胸、気力もいう。
3.物の中央の膨らんだ部分。「指の腹」「銚子の腹」など。
4.背に対して、物の内側の部分。
蠅・蝿・・・ハエ目ハエ亜目ハエ下目に属する昆虫の総称。羽は二枚で触角は太くて短い。食べ物などにたかり、伝染病を媒介する。長い口先を使って液体などを舐める。幼虫はいわゆる「うじ」。不快なもの、五月蝿(うるさ)いものの代名詞にも使われる。
ここに意味を表示
蚊・ハエの表現・描写・類語(昆虫・虫のカテゴリ)の一覧 ランダム5
腹のふくれたぐみのような蚊
島木 健作 / 生活の探求〈第1,2部〉 (1950年) amazon
このカテゴリを全部見る
「昆虫・虫」カテゴリからランダム5
糸の縫い目に、白い埃のように虱(しらみ)たちがじっとかくれている
遠藤 周作 / 沈黙 amazon
糸杉のそれぞれの幹には数え切れないほどの蟬がしっかりとしがみついて、世界が終末に向って転がり始めたといった風に鳴きわめいていた。
村上 春樹「羊をめぐる冒険」に収録 amazon
(米つきばった)善良な長い顔の先に短い二本の触覚を持った、そう思えばいかにも神主めいたばったが、女の子に後脚を持たれて身動きのならないままに米をつくその恰好が呑気 なものに思い浮かんだ。
梶井基次郎 / 城のある町にて
蠅がふたたび、彼と女との汗の臭いを慕って、首のまわりを飛びまわりはじめた。
遠藤周作「沈黙(新潮文庫)」に収録 amazon
同じカテゴリの表現一覧
昆虫・虫 の表現の一覧
風景表現 大カテゴリ