成瀬と久遠が銀行内を飛び回るのが横目に見える。跳ねるインパラのように駆けはじめている。

しっちゃかめっちゃかでお祭り騒ぎくらいの方が、生きている実感がわく。

後ろを振り向く暇もないほど忙しい

仕事が雪崩みたいにいっぱい舞い込む

目がまわる忙しさ

川のこちら岸には高い欅（けやき）の樹が葉を茂らせている。喬（たかし）は風に戦（そよ）いでいるその高い梢（こずえ）に心は惹（ひ）かれた。ややしばらく凝視（みい）っているうちに、彼の心の裡のなにかがその梢に棲（とま）り、高い気流のなかで小さい葉と共に揺れ青い枝と共に撓（たわ）んでいるのが感じられた。 「ああこの気持」と喬は思った。「視（み）ること、それはもうなにかなのだ。自分の魂の一部分あるいは全部がそれに乗り移ることなのだ」《…略…》病鬱や生活の苦渋が鎮められ、ある距（へだた）りをおいて眺められるものとなる心の不思議が、ここの高い欅の梢にも感じられるのだった。

意識も感覚も失われ、生命維持装置によってただ機械的に生かされている、生きる屍

僕の頭が混乱してくるとよくシャツにアイロンをかける。昔からずっとそうなのだ。《…略…》アイロンのスイッチを切り、アイロン台と一緒に押入れの中にしまってしまうと、僕の頭はいくぶんすっきりとしたようだった。

逆転判決の無罪を掴んで身の潔白を証明してみせた。

注文伝票が、悪夢のように捌（さば）いても捌いてもあとからあとから増える