彼は危うくその発作的な気持に 惹き込まれかけたが、ガタンと音のするような感じで我に還ると、 驚いてその不思議な気持から飛び退いた。

まわりの話し声も普通の話し声として聞こえるようになった。（自分の）声はまだ自分の声のようには聞こえない。しかしなんとかそれに近いものにはなっている。

「おい、立花、焦げてるぞ」 　江原がいい、立花の思考はそこで中断すると、そのままこのやりとりから頭は離れていった。

夢からさめたように前を見ると

意識がだんだんあるべき場所に戻り、身体の感覚が通常に復してきた。

そのとき、すごく長かった夢から目が覚めた。 　ぱっちりと。これだった、とわかった。

正気を疑われかねない発想

問題を頭の中で理論的に筋道をつけて考える

札幌駅の河西も、東京駅の女中も、安田に作られた目撃者である。安田自身がこの情死事件には不在であるという証明のためにである。 　札幌、東京の二つの駅でおこなわれた安田の作為の行末は、交差の点を九州博多の近郊香椎に結んでいる。すべて彼がそこにいなかった、という結像である。 　ここまで考えてきて、三原は、安田辰郎がかならずそこにいたという自信を強めた。作為が加わっている以上、その結像は虚像である。実像は反対に転倒している。《…略…》彼は事件に不在どころか、確固として存在していたのだ。安田の努力を検討すると、この実像を反対に結像して見せることに指向している。

一本の棒を二人で一生懸命に押しあっている気持ちなり。