谷は、白い雲の固まりがひっそりと降り静まったように花で埋まっている

屏風（びょうぶ）のように切り立った大きな岩

多摩川にせり出した、切り立った崖

（谷底の町）曇った空の下に、二つの岡の谷底になったR・町は、もうすっかり暗く暮れてしまって、一かたまりの襤褸（ぼろ）を布いたように黒々と地にこびりつきながら

眼前に、黒々と聳え立つ岩の要塞があった。 　いや、実際にはまだ遥か遠方にある。なのに圧倒的な岩の質感がそう見せる。視界のすべてを奪ってこちらに迫ってくる。上越国境の稜線が真一文字に宙を切り裂き、その上の空は圧縮されでもしたかのように狭い。壮観というのとは違う。威圧的だ。一ノ倉沢は人間を拒絶している。そうせんがために、確固たる意思を抱いた自然が巨大な城壁を築き上げた。そんな思いにとらわれる。

（震災で）廃墟になったような大都会の光景

この街にいろいろな人が集ってくる 飢えによる堕落の人々 萎縮（いしゅく）した顔　病める肉体の渦 下層階級のはきだめ 天皇陛下は狂っておいでになるそうだ 患っているもののみの東京！

時どき烟（けむり）を吐く煙突があって、田野はその辺（あた）りから展（ひら）けていた。レンブラントの素描めいた風景が散らばっている。

我々の前には湖のような広い草原が開けていた。

かれは両手両足をひろげて、まるで、セミのように岩のはだへかじりついていた