もう十日あまりも銀杏返しをもたせているので、頭の地がかゆくて仕方がない。

自分の心と肉体とがさながら蛆虫（うじむし）のようにきたなく見えた。

褌（ふんどし）もシャツも赭黒（あかぐろ）く色が変って、つまみ上げると、硫酸でもかけたように、ボロボロにくずれそうだった。

赤煉瓦（れんが）の鋪道の片隅に、二銭のコマを売っている汚れたお爺さんがいた。人間って、こんな姿をしてまでも生きていなくてはならないのかしら

立ン坊だの、屑屋だの、軽子だの、乞食だの、まるで生ける餓鬼草紙（がきぞうし）みたいな、臭い人種

全体からかもしだされる生命力の揺れみたいな鮮やかな光──人間じゃないみたいだった。こんな人見たことない。《…略…》よくよく見れば確かに歳相応のしわとか、少し悪い歯並びとか、ちゃんと人間らしい部分を感じた。それでも彼女は圧倒的だった。もう一回会いたいと思わせた。心の中にあたたかい光が残像みたいにそっと輝いて、これが魅力っていうものなんだわ、と私は感じていた。初めて水っていうものがわかったヘレンみたいに、言葉が生きた姿で目の前に新鮮にはじけた。大げさなんじゃなくて、それほど驚いた出会いだったのだ。

一身の利害を度外視して行動する勇ましさ

夜、十二時の浅草はしめったオブラートより寂しい。

小さな影が黒い礫（つぶて）のように広場の中に駈けだして行った。

「シェパード」は十九世紀のドイツで生み出された警察犬や軍用犬用の犬で、「スピッツ」はキャンキャンとうるさいことで有名な小型犬だ。仕事に忠実で、落ち着いている銀行員については、「シェパード」、ちょっとした物音でパニックを起こしそうな行員については、「スピッツ」と呼んでいる。