足元から悪寒が駆けのぼってくる

肌の上を蛇が這っているみたいな悪寒

熱病患者が冷たいものに触れた時のような不快な悪寒（おかん）

ぞっと寒いものを背すじに這わせて

毛孔（けあな）が一本一本逆立（さかだ）つほどの寒気（さむけ）を感じた。

気を揉む

相手の剣幕に辟易して後ずさりする

時計の針がとまったように一向に夜が更けぬ。

汗で額を光らせたまま

青白い仮面のような顔

（入院中の爺さんをお見舞いに来て爺さんに怒鳴られて）老婦人は顔を伏せてちぢこまっているが、別にしょんぼりしている様子でもない。四十年も五十年もこの調子でどなりつけられてきて、何も感じなくなっているのだろう。《…略…》 （婆さんが言う）「すみませんねえ。うるさい、きたない年寄りで……」　テーブルの下の棚から、やっと「突き匙」が出てきたときには、吉田老は怒り過ぎたのか、いささかぐったりとしていた。姿勢をしゃんと正さず、半分起きた状態で果物を口に運ぶために、喉仏から鎖骨のあたりに果汁がぼたぼたこぼれ落ちる。婆さんはそれを見て、またしきりに〝きたない〟〝きたない〟と繰り返すのだった。　最初のうち、おれはこの老夫婦の会話をほほえましく聞いていたのだ。昔ながらの封建的だが駄々っ子のような亭主と忍従型の老妻とのやりとりとして。　誤算だった。　婆さんの顔は、押さえきれない喜びに輝いていた。　婆さんは、いまやじっくりと復讐を楽しんでいるのだった。愚鈍を装って、傲慢な夫の神経に、一本一本細い針を突き立てている。ののしられ、婢（はしため）あつかいされ続けたこの半世紀の間、婆さんはじっとこの日を待ち続けて耐えてきたのだろう。いまや、吉田老に残された武器は、どなり慣れた口だけだ。それも所詮は空砲だ。婆さんはいま、案山子の正体を知ったカラスになって、じわじわと一本足の吉田老に近づいていくのだった。

記憶には手続き記憶、意味記憶、エピソード記憶の三種類があるのは有名ですね。《…略…》それぞれの記憶は脳の別の部分が保管しています。そのため、ある記憶ははっきりと憶えているのに、別の記憶はさっぱり保管できないということがままあります。アルツハイマーという病気はエピソード記憶を失うもので意味記憶についてはしっかりしています。だから日々の生活には困らないのです。

心身の疲労から眼を 開いていられなかった。節々妙に力が抜け、身動きも出来ぬ心持だった。

体がどっしりした疲労感に浸される

だらしのない男で、つまらぬ女に引っかかったり