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(世間から忘れさられる象消滅のニュース)象の消滅から一週間経った頃からはその記事も目に見えて減少し、ついには殆んど目につかないまでになってしまった。週刊誌もいくつか興味本位の記事を載せ、中には霊能者までひっぱりだしたものもあったが、それもやがては尻すぼみに終ってしまった。人々は象の事件を数多くの同僚を有する「解明不能の謎」というカテゴリーの中に押しこもうとしているように見えた。年老いた象が一頭と年老いた飼育係が一人この土地から消滅してしまったところで、社会の趨勢には何の影響もないのだ。地球は単調な回転をつづけ、政治家はさしてあてになりそうもない声明を発表しつづけ、人々はあくびをしながら会社にでかけ、子供たちは受験勉強をつづけていた。寄せては返す果てしない日常の波の中で、行方不明になった一頭の象に対する興味がいつまでもつづくわけはない。そのようにしてこれといって特徴のない何ヵ月かが窓の外を行進していく疲弊した軍隊のように過ぎ去っていった。
村上 春樹 / 象の消滅「新装版 パン屋再襲撃 (文春文庫)」に収録 ページ位置:44% 作品を確認(amazon)
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忘れ去られる・関心を持たれなくなる
未解決事件
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前後の文章を含んだ引用
......かった。新聞に書いてあるのは「依然として行方不明」とか、「苦悩の色濃い捜査陣」とか、「背後に秘密組織か」といったような無意味で見当違いなことばかりだった。そして象の消滅から一週間経った頃からはその記事も目に見えて減少し、ついには殆んど目につかないまでになってしまった。週刊誌もいくつか興味本位の記事を載せ、中には霊能者までひっぱりだしたものもあったが、それもやがては尻すぼみに終ってしまった。人々は象の事件を数多くの同僚を有する「解明不能の謎」というカテゴリーの中に押しこもうとしているように見えた。年老いた象が一頭と年老いた飼育係が一人この土地から消滅してしまったところで、社会の趨勢には何の影響もないのだ。地球は単調な回転をつづけ、政治家はさしてあてになりそうもない声明を発表しつづけ、人々はあくびをしながら会社にでかけ、子供たちは受験勉強をつづけていた。寄せては返す果てしない日常の波の中で、行方不明になった一頭の象に対する興味がいつまでもつづくわけはない。そのようにしてこれといって特徴のない何ヵ月かが窓の外を行進していく疲弊した軍隊のように過ぎ去っていった。 僕はときどき暇をみつけてはかつての象舎にまででかけ、象のいなくなった象の住みかを眺めた。鉄柵の入口には太いチェーン錠がぐるぐると巻きつけられ、誰も中に入れない......
単語の意味
響もす(どよもす・とよもす)
行進(こうしん)
尻・臀・後(しり)
象(ぞう)
政治(せいじ)
響もす・・・音や声を響かせる。どよめかせる。
行進・・・大勢が隊列を組んで進んでいくこと。
尻・臀・後・・・1.腰のうしろ下部で、肉が豊かについている部位。座るときや腰をかけるときに下に位置するところ。肛門(こうもん)と尾てい骨がある辺り。尻(けつ)。臀部(でんぶ)。御居処(おいど)。
2.衣服の1にあたる部分。「ズボンの尻」
3.和服の腰から下の、裾(すそ)のほうの部分。
4.物事や長く続いているモノの、後方や一番あと。終わりの部分。しまい。最後。末端(まったん)。結果。
5.容器の外側の底の部分。また、果物の底部。「鍋の尻」
2.衣服の1にあたる部分。「ズボンの尻」
3.和服の腰から下の、裾(すそ)のほうの部分。
4.物事や長く続いているモノの、後方や一番あと。終わりの部分。しまい。最後。末端(まったん)。結果。
5.容器の外側の底の部分。また、果物の底部。「鍋の尻」
象・・・ゾウ科の哺乳動物。巨大で全身灰色、長い牙を持つ。最大の特徴である自由に屈伸する長い鼻は、人間の手と同じように物を掴むことができる。「象」の字は象の姿の象形文字。アジア象は基本的に穏やかな性格で、家畜として飼育される。
政治・・・住みやすい社会にするために政治家みんなで話し合ってルール(法律)を決めること。
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わたしは、教室の軒に何カ月もぶら下げられたまま忘れられ、茶色くパリパリになってしまったドライフラワーのような子供だった。
小川洋子 / 冷めない紅茶「完璧な病室 (中公文庫)」に収録 amazon
やがて記事が掲載される頻度は下降し、いつしか、この事件が紙面に載ることもなくなる。そして、誰も気に留めぬうちに、ひっそりと時効を迎えるのだ。
翔田 寛「真犯人 (小学館文庫)」に収録 amazon
花の盛りが過ぎてゆくのと同じように、いつの頃からか筧にはその深祕がなくなってしまい、
梶井基次郎 / 筧の話
フライパンの中で、すっかり冷めてしまったベーコンエッグが息をひそめていた。
小川 洋子「妊娠カレンダー (文春文庫)」に収録 amazon
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結局何を考えていたかを思い出せず消化不良になる
綿矢 りさ「しょうがの味は熱い (文春文庫)」に収録 amazon
(目に焼き付く。街を見渡したあと)冬の陽射しに眩んだ目を閉じると、十和子の内部にも不揃いな建物の群れと、街路と、電柱の列からなる見知らぬ街がひっそりと佇んでいる。
沼田 まほかる「彼女がその名を知らない鳥たち (幻冬舎文庫)」に収録 amazon
小学校の頃の記憶と違う光景なので、昔を思い出しながら走ると、記憶と視界がかみ合わなくてちかちかする。
村田 沙耶香「しろいろの街の、その骨の体温の」に収録 amazon
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話題が旋風のように捲き起る。
松本 清張 / 真贋の森「松本清張ジャンル別作品集(3) 美術ミステリ (双葉文庫)」に収録 amazon
この稀有 の大 げさな広告がまた小さな仙台の市中をどよめき渡らした。
有島武郎 / 或る女
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火事がホンの狂言のようにすぐ鎮まる
徳永 直 / 太陽のない街 amazon
火の壁をくぐって、亡霊のような人影がもつれ合いながらよろめき出る
光瀬 龍 / 百億の昼と千億の夜 amazon
丸子橋や多摩堤通りを無数の野次馬や報道陣が埋め尽くし、報道機関のヘリコプターまでが上空に飛来した
翔田 寛「真犯人 (小学館文庫)」に収録 amazon
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