（深夜のパリのブラッスリー）時計は午前二時を過ぎた。攪（か）き廻（まわ）されて濃くなった部屋の空気は、サフランの花を踏み躙（にじ）ったような一種の甘い妖（あや）しい匂いに充（み）ち、肉体を気だるくさす代りに精神をしばしば不安に突き抜くほど鋭く閃（ひらめ）かせた。人と人との言葉は警句ばかりとなり、それも談話としてはほんの形式だけで、意味は身振りや表情でとっくの先に通じてしまう。廻転（かいてん）ドアの客の出入りも少くなり、その代り、詰めに詰め込んだという座席の客は、いずれもこの悪魔的の感興の時間に殉ずる一種の覚悟と横着とを唇の辺にたたえ、その気分の影響は、広間全体をどっしりと重いものに見せて来た。

（デパートの）おもちゃ売場は、子供たちの声とおもちゃの発する電子音が絡まった、音のカーテンに包まれていた。

店の窓は総ガラス張りで、さえぎるものもなく外の様子は無声映画のように伝わってくる

平日の、午後のデパート。外が見下ろせるティールームはがらがらだった。

カウンターの前に７人座れば満員というこじんまりしたお店

ドアを押すと、鈍い音をたてて 軋きしんだ。

照明が暗いのでとても落ち着いた。手元が見えないくらいだった。店中がいつも、もう夕方なのにわざと明かりをつけずに待っているような様子だった。

家の中に木の香りを含んだ闇がひっそりと住みつく

大部屋には朝日が射し込み、早朝出勤の局員が舞い上げたミクロの埃を映し出していた。

四囲は水族館の水槽の底のように暗く沈んでいった