病院の広い中庭では、浴衣を着た十数人の患者が看護婦の指導で体操をしている

（新生児室）新生児が大勢 籠かご に入って、焼きかけの今川焼みたいに並んでいる。看護婦が 餡あん 子こ でも入れるように次から次へと手際よく胸のガーゼを取り替えていた。

病院特有の強い消毒液のにおい

白い角砂糖のような病院の建物

（夜の病院）まだ八時前だというのに外来受付の明かりが消されてしまった待合ホールは、薄暗い蛍光灯の中、古びたベンチが並んでいる。 　昼間、ここで百人を超す人々が順番待ちをしていたとは思えないほど狭い。 　人々の姿が消え、夜間の待合ホールに残されているのは、古びたベンチと、カラフルなペンキで床に示された各病棟への矢印だけだ。 　ピンク色の矢印は産婦人科へ。黄色い矢印は小児科へ。そら色の矢印は脳外科へ。 　薄暗い蛍光灯の下、カラフルな矢印だけが華やいで見える。カラフルな矢印だけが場違いに見える。

映画館の看板や百貨店の垂れ幕が色鮮やかな繁華街の中でひときわはなやいで映っていた。

（教会）群衆が会堂に満ち、 跪いて祈っていた。声なき音楽が、彼等のうなだれた頭の上を渡るらしかった。

野薔薇の花が星のように咲く古城の壁

（ホテルの一部がうらぶれて博物館のようになっていて、）暗い廊下の奥に羊の剥製やら、埃だらけの毛皮やら、黴臭い資料やら、茶色く変色した古い写真やらが積みかさねてある（略、）果たされざる想いが乾いた泥のように隅々にしっかりとこびりついているようなホテル

港では船がはいって来たのか、自動車がしっきりなしに店の前を走って行く。

（心療内科）心の医療現場

診察室にも 垢 臭い変な臭いがこもっている。ここに来た患者たちが溜めていった体臭なのか、それとも薬の臭いかわからない。

病院内は外来受付が終わり、靴音が響くぐらい静かだった

病院の窓々にはうるんだ灯がともり、港にはいる満艦飾の船のように見えた

白い角砂糖のような病院の建物