小さな雨除けだけがついた公衆電話

電話は利用されるのを待つばかりで、自分自身でコミュニケーションを取れないことに苛立っているようにも見える

真夜中に電話をかけてくるのはお願いだからやめてほしいと、はっきり頼んだ。収穫前にイナゴの群れを畑に送りつけないでくれと、神さまにお願いする農夫のように。

電話は特別な意味深い動物のようにわたしの前に横たわっていた。受話器の曲線や、プッシュボタンの溝や、しなやかにのびるコードが、エロティックな動物の姿態を連想させた。《…略…》電話は、一晩中ぴくりとも動かずにじっとうずくまっていることもあったし、時々明瞭な声を上げてわたしをびくっとさせることもあった。ベルが鳴って受話器を取る時、見知らぬ動物に触れる時のような小さなためらいがあった。

（かかってくるかもしれない）電話というのは置き去りにされた時限爆弾みたいに思える

受話器を抱くようにしてひっそりと話をする

（電話の混線）電話はいやに遠く、おまけに混線していたので、必要以上に大きな声でしゃべらねばならず、そのためにお互いのことばから微妙なニュアンスが失われていた。

電話が切れた。 　僕はまたしばらく受話器を眺めてから、それを下に置いた。

ル、ルン。 　黒い電話機がベルを鳴らした。

（電話に出ない、居留守）胸のうちで呼び出し音を数えている。いつまでも鳴り止まない気がしはじめたころ、音が途切れる。