剃刀の刃が、髯（ひげ）の根（ね）を、気もちよくとおってゆく音を聞きながら

顎を上に向け伸びきった喉を鏡に映す。剃刀の峰の部分を喉もとに当てて下にさげていく。

髭を巻き込んだシェーバーの音はかすかに乱れる

電気シェーバーがブーンと低い唸り声を上げる

剃刀を首筋に当てて髭をそり落とす

別人かと思った。髪の毛が短いせいじゃなくって、何だか印象がまるで違う

冷たい金属の感触が彼女の首筋に触れると、すぐに耳障りな音が響いた。沙江子が目を開けると、切られた髪が舞い落ちる処だった。

髪はクールなショートカットにまとめられ、額に落ちた前髪にはまだはさみのあとが残っているみたいだ。

しゃきしゃきと銀のはさみの音がする。

髪をばっさり切ると、他人の対応が少し変わるから、自分の性格も微妙に変化する。

最近鼻の下に小さいひげを蓄え始める

黒い髭が頰と顎を影のように被い

頬のひげが痛いくらい伸びている

顎の全体を覆う髭

刈り揃えた髭だけがへんに文明的な感じ

（音楽が終わる）レコードが終了し、針が自動的に上がり、アームが水平に動いてアームレストが戻った

最後の曲が終わった。布を裂くような音でレコードはまだ回っている。

ラックの一番上には部屋の御本尊のようにミシンが置いてあった。

ストーブが獣のうなり声みたいにウーウーと鳴る

バルコニーにいかみたいに干されたウェットスーツ。

正面（しょうめん）の青じろい時計（とけい）はかっきり第二時（だいにじ）を示（しめ）し、風もなくなり汽車もうごかず、しずかなしずかな野原のなかにその振（ふ）り子（こ）はカチッカチッと正しく時を刻（きざ）んでいくのでした。 　そしてまったくその振（ふ）り子（こ）の音のたえまを遠くの遠くの野原のはてから、かすかなかすかな旋律（せんりつ）が糸のように流（なが）れて来るのでした。

今にも雪の降って来そうな空模様なのに、ベンチの浮浪人達は、朗かな鼾声（いびき）をあげて眠っている。

その場所は説明がなければディスコティックというよりは巧妙につくられた温室か水族館と言っても通用しそうだった。何もかもがガラスで作られているせいだ。床と天井をのぞけば、テーブルも壁も装飾品もぜんぶがガラス製だった。そして至るところに巨大な観葉植物が配されている。 　ガラスの仕切りで区切られたブロックのあるものの中では人々はカクテル・グラスを傾け、あるものの中では人々は踊っていた。それは僕に精密な透明の人体模型のようなものを連想させた。ひとつひとつの部分がそれぞれの原則にしたがってきちんと機能している。《…略…》店内にはガラスの壁がはりめぐらされ、それは透明な迷路をさえ思わせる。

不器用な刈り方ではあったが、それでも頭のなかを風が吹き抜けてゆくような爽やかさである。

小さな船着場の横に、白い病院の燈火が海にちらちら光っていた。