バラ色の花のように美しい夕焼け雲

空にはまだ残照があって、黒ずんだ牡丹色に雲を染めている

黄ばんだ赤茶けた色が泣きたいほど美しい雲

夕焼けの雲が西の空から広がって、厳かに見えるほど単純な深さで半天をばら色に染める

落日にいろどられて光を呼吸するように見えた雲も、煙のような白と淡藍（うすあい）との陰日向を見せて

頂上から空を見上げると、月は驚くほど間近に、そして荒々しく見えた。それは激しい歳月に肌を 蝕まれた粗暴な岩球だった。その表面に浮かんだ様々なかたちの不吉な影は、生命の営みの温もりにむけて触手をのばす癌の盲目の細胞だった。月の光はそこにあるあらゆる音をゆがめ、意味を洗い流し、心のゆくえを惑わせていた。

なんとすばらしい火の美だろう、恐い魔術だろう、瞬間の光焔の中には見上げたものの魂がみんな燃えてしまった。

「体まで青に溶けそうに青いね。」 　手を空にかざして、うららが言った。

間違いない。月は二個ある。　ひとつは昔からずっとあるもともとの月であり、もうひとつはずっと小振りな緑色の月だった。それは本来の月よりかたちがいびつで、明るさも劣っていた。行きがかりで押しつけられた、だれにも歓迎されない、貧しく醜い遠縁の子供のように見えた。

月光が弾け散る川面