頂上から空を見上げると、月は驚くほど間近に、そして荒々しく見えた。それは激しい歳月に肌を 蝕まれた粗暴な岩球だった。その表面に浮かんだ様々なかたちの不吉な影は、生命の営みの温もりにむけて触手をのばす癌の盲目の細胞だった。月の光はそこにあるあらゆる音をゆがめ、意味を洗い流し、心のゆくえを惑わせていた。
村上春樹「スプートニクの恋人 (講談社文庫)」に収録 ページ位置:80% 作品を確認(amazon)
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月
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前後の文章を含んだ引用
......、耳はまったくべつの場所と時間にあるものを間違ってひろいあげていたのかもしれない。だいたい夜中の一時に、どんな人間が山の上に集まって音楽を演奏するというのだ? 頂上から空を見上げると、月は驚くほど間近に、そして荒々しく見えた。それは激しい歳月に肌を蝕まれた粗暴な岩球だった。その表面に浮かんだ様々なかたちの不吉な影は、生命の営みの温もりにむけて触手をのばす癌の盲目の細胞だった。月の光はそこにあるあらゆる音をゆがめ、意味を洗い流し、心のゆくえを惑わせていた。それはミュウに自らのもうひとつの姿を目撃させた。それはすみれの猫をどこかに連れ去った。それはすみれの姿を消した。それは存在するはずのない音楽をかなで、ぼくをここ......
単語の意味
見上げる(みあげる)
見上げる・・・1.下から上のほうを見る。
2.立派だなぁ、と感心する。
2.立派だなぁ、と感心する。
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月の表現・描写・類語(空・中空のカテゴリ)の一覧 ランダム5
西空に懸った細い月は、 紐 で 繋がれたように、太陽の後を追って沈んで行った。
昇平, 大岡「野火(のび) (新潮文庫)」に収録 amazon
新月がキラキラと、紋章のように輝いている。
岩田 豊雄 / 沙羅乙女「獅子文六作品集〈第4巻〉沙羅乙女・信子 (1958年)」に収録 amazon
(赤い月)赤い月が墓地に出ていた。火のついた街では氷を削るような音がしている。
林芙美子 / 新版 放浪記
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「空・中空」カテゴリからランダム5
花火にこと寄せて、人に気づかれぬように肩を抱く
曽野 綾子 / 夫婦の情景 amazon
空はこわいくらい青い。
吉本 ばなな「アムリタ(下) (新潮文庫)」に収録 amazon
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