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その「そうかしら」という彼女のいくらか語尾をはね上げて発音する声が、いまも、はっきりと彼の耳の中深くで甦った。「そうかしら」それは彼の耳の中の空気を、十年前と同じやわらかい振幅でふるわせるようである。
野間 宏 / 残像「暗い絵・顔の中の赤い月 (講談社文芸文庫)」に収録 ページ位置:40% 作品を確認(amazon)
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耳に残る・音声を覚えている
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前後の文章を含んだ引用
......毛をもじゃもじゃと蓄えていたときのことであった。もちろん彼はいやだと言いはったのである。「そうかしら、茂明さんには似合うんじゃあない?」と彼女は言った。そして、その「そうかしら」という彼女のいくらか語尾をはね上げて発音する声が、いまも、はっきりと彼の耳の中深くで甦った。「そうかしら」それは彼の耳の中の空気を、十年前と同じやわらかい振幅でふるわせるようである。彼女はこの「そうかしら」という言葉を頭につけてよく会話を導く習慣をもっていた。そしてそのために彼女は友人の間で、「そうかしら」さんという渾名で呼ばれたのである。......
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耳に残る・音声を覚えているの表現・描写・類語(記憶のカテゴリ)の一覧 ランダム5
(女の肉声と月琴の音が耳に残る。波音が)彼には 先刻 から法界節の琴や月琴の 音 に聞えて仕方なかった。波の音と聞こうと思えばちょっとの間それは波の音になる。が、ちょうど 睡 い時に 覚めていようとしながら、いつか 夢 へ引き込まれて行くように波の音はすぐまた琴や月琴の音に変って行った。彼はまたその 奥 にありありと女の肉声を聴いた。
志賀 直哉 / 真鶴「城の崎にて・小僧の神様 (角川文庫)」に収録 amazon
言葉が耳朶(じだ)のうちに彫り付けられたように残っている
菊池 寛 / 菊池寛 amazon
ピンボールの響きはまだ幾らか耳に残ってはいたが、冬の陽だまりに落ちた蜂の羽音のようなその狂おしい唸りはもう消え去っていた。
村上 春樹「1973年のピンボール (講談社文庫)」に収録 amazon
震えて発せられたその言葉は、風に乗って入ってしまった羽虫のように、いつまでも嫌な感覚とともに耳の中に残った。
新海 誠「小説 君の名は。 (角川文庫)」に収録 amazon
不気味な電話のことを思い出す。粘りつくあの声は耳にこびりついている。
伊坂 幸太郎 / オーデュボンの祈り amazon
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