車は夜の盛り場の渋滞に巻き込まれてのろのろと進んだ。

下り線は順調に流れている。上り線だけが悲劇的に渋滞している。

道路の流れはまだ滞っていた。苛立ったのか、前方の車からクラクションが鳴った。遠吠えに反応する犬のように、別の車からもクラクションが発せられる。

赤のブレーキランプが列を作っている

新宿に向う道路はひどく渋滞していた。あるポイントを越えると、車は錨を下ろしたみたいに殆んど動かなくなってしまった。ときどき波に揺られて車が何センチか移動するといった感じだ。

（若者が）自転車の上に四ツ 這いになり、頭を 米こめ 搗つき 機械のように動かしながら走っていた。向い風では、上体を全体右に左に揺り動かし、いかにも苦しそうだが、再び追い風に来ると、急に楽になり、早くなる。

キイをさしこんでまわしてみると、エンジンはすぐに気持の良い音を立てた。

通りに面した窓を開けると、環状七号線の交通の音が遠い海鳴りのように聞こえる。

車の音が、潮騒のように風に乗って聞こえる

トツトツ・・・というバイクの単調な爆音

ひしめきあった車の列

胃の手術をして以来、夫のたべものはずいぶん変った。それまで好きだったシチューや煮こみ料理は、あまり食べなくなった。

霊園は墓地というよりは、まるで見捨てられた町のように見える。敷地の半分以上は空地だった。

（帰宅して）ドアを開けると、部屋の中はいつもにも増してがらんとして見えた。そこにあるのは、彼がその朝に残していったままの空白だった。床に脱ぎ捨てたシャツ、スイッチを切られたワードプロセッサー、彼の体重のくぼみを残した回転椅子

死は広大な敷地のそれぞれの地面に根を下ろしていた。《…略…》それぞれの名前と時と、そしてそれぞれの過去の生を背負った死は、まるで植物園のかん木の列のように、等間隔を取ってどこまでも続いていた。彼らには風に揺れるざわめきもなく、香りもなく、闇に向ってさしのべるべき触手もなかった。彼らは時を失った樹木のように見えた。彼らは想いも、そしてそれを運ぶ言葉をも持たなかった。彼らは生きつづけるものたちにそれを委ねた。《…略…》海からの潮風、木々の葉の香り、叢のコオロギ、そういった生きつづける世界の哀しみだけがあたりに充ちていた。