(なんだかここら惹かれる風景)ただそれだけの眺めであった。どこを取り立てて特別心を惹 くようなところはなかった。それでいて変に心が惹かれた。 なにかある。ほんとうになにかがそこにある。と言ってその気持を口に出せば、もう空ぞらしいものになってしまう。《…略…》人種の異ったような人びとが住んでいて、この世と離れた生活を営んでいる。――そんなような所にも思える。とはいえそれはあまりお伽話 めかした、ぴったりしないところがある。《…略…》そこに限って気韻が生動している。そんなふうに思えた。
梶井基次郎 / 城のある町にて ページ位置:18% 作品を確認(青空文庫)
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絶景・美しい風景
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前後の文章を含んだ引用
......入江を見るのが癖になっていた。 海岸にしては大きい立木が所どころ繁っている。その蔭にちょっぴり人家の屋根が覗 いている。そして入江には舟が舫 っている気持。 それはただそれだけの眺めであった。どこを取り立てて特別心を惹 くようなところはなかった。それでいて変に心が惹かれた。 なにかある。ほんとうになにかがそこにある。と言ってその気持を口に出せば、もう空ぞらしいものになってしまう。 たとえばそれを故のない淡い憧憬 と言ったふうの気持、と名づけてみようか。誰かが「そうじゃないか」と尋ねてくれたとすれば彼はその名づけ方に賛成したかもしれない。しかし自分では「まだなにか」という気持がする。 人種の異ったような人びとが住んでいて、この世と離れた生活を営んでいる。――そんなような所にも思える。とはいえそれはあまりお伽話 めかした、ぴったりしないところがある。 なにか外国の画で、あそこに似た所が描いてあったのが思い出せないためではないかとも思ってみる。それにはコンステイブルの画を一枚思い出している。やはりそれでもない。 ではいったい何だろうか。このパノラマ風の眺めは何に限らず一種の美しさを添えるものである。しかし入江の眺めはそれに過ぎていた。そこに限って気韻が生動している。そんなふうに思えた。―― 空が秋らしく青空に澄む日には、海はその青よりやや温い深青に映った。白い雲がある時は海も白く光って見えた。今日は先ほどの入道雲が水平線の上へ拡がってザボンの......
単語の意味
異(い)
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胸のすくような眺め
伊藤左千夫 / 野菊の墓
涼しそうな緑の衝立の蔭。確かに清冽 で豊かな水。なんとなく魅せられた感じであった。
梶井基次郎 / 城のある町にて
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海のように荒れくるい、また静まる厖大な森
大江 健三郎 / 芽むしり仔撃ち amazon
立山の、灰色の頂だけが、はるか前方の空中で雲かと見まごうばかりに浮かんでいる。
宮本 輝 / 螢川「螢川・泥の河(新潮文庫)」に収録 amazon
笛の音や、うちわや、潮風の風景がゆっくりと夜に映って、まるで燈籠のように流れてゆく
吉本 ばなな / TUGUMI(つぐみ) amazon
「だって、なんかどんどん変わっていくんだもん。せっかく見つけた遊び場も、すぐ工事現場になっちゃうし。引っ越してくる前の街はそんなことなかったもん。なんか変。生き物みたい」
村田 沙耶香「しろいろの街の、その骨の体温の」に収録 amazon
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