わたしはその時、およそ初めて、野呂という男に向け続けていた自分の愛が、ひとつの季節を終えたのを知った。愛という厄介な問題を、自分なりに乗り越えることができたことを感じた。感じながら、柿村を相手に、新しい自分、次なる自分が育ち、生まれつつあることを意識していた。
小池真理子「愛するということ (幻冬舎文庫)」に収録 ページ位置:96% 作品を確認(amazon)
この表現が分類されたカテゴリ
悲しみを乗り越える
しおりに登録する
前後の文章を含んだ引用
......、くだらない涙にくれそうになったら、まず怒るんだ。今みたいにな」 わたしは彼に背を向けたまま、黙っていた。唇がわずかに震え、小鼻がひくひくと動くのがわかった。 わたしはその時、およそ初めて、野呂という男に向け続けていた自分の愛が、ひとつの季節を終えたのを知った。愛という厄介な問題を、自分なりに乗り越えることができたことを感じた。感じながら、柿村を相手に、新しい自分、次なる自分が育ち、生まれつつあることを意識していた。 背後に足音が近づいてきた。柿村の太い腕が後ろから伸びてきて、わたしの身体をそっと羽交い締めにしてきた。首すじのあたりに彼の熱い息があたるのを感じた。 わかった......
ここに意味を表示
悲しみを乗り越えるの表現・描写・類語(悲しみのカテゴリ)の一覧 ランダム5
このカテゴリを全部見る
「悲しみ」カテゴリからランダム5
同じカテゴリの表現一覧
悲しみ の表現の一覧
感情表現 大カテゴリ