ママは自殺したのだから。 　この、美しいはずの世界を捨てて。

彼女の唇の両端から血がたらたらと流れて来た。《…略…》彼女は舌を咬（か）み切（き）って自殺した。

絶望ということは、必ずしも死を選ませはしない。絶望の極死を選むということは、まだ、どこかに、それを敢行する意力が残っているときの事である。真の絶望というものは、ただ、人を痴呆（ちほう）状態に置く。脱力した状態のままで、ただ何となく口に希望らしいものを譫言（うわごと）のようにいわせるだけだ。

（その後自殺する彼との恋愛）私は、出会ったときすでに電球の切れかけていた彼の心の部屋に飛び込んでいった 蝶々 だ。慰めにはなったとしても、 闇 にきらきらと昼の残像を持ち込み、ますます混乱させただけだった。

死に場所を求めてさ迷う

今までは勝手に先に自分で死んだあの子に、嫌われたような裏切られたようなくやしい気持ちが、心のどこかにあった

最も愛する人たちが、自分よりも 先に死んでくれている というのは、彼女の死の不安を 宥め、孤独な生を支えてさえいるところがあった。

涙を流して手を合わせてくれた。

泣きそびれてしまったのだ。ただ、心ががらんとした。

巻かれていた時計のねじがだんだん緩んで、モーメントが限りなくゼロに近くなり、やがて歯車が最後の動きを止め、針がひとつの位置にぴたりと停止する。沈黙が降りる。