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(家の中が酸っぱい)驚いたのは匂いである。  ひどく酸っぱい。  九鬼本は、はじめ、五目ずしでも大量に作ったのかと思った。《…略…》酸っぱい、といったところで、ツーンと鼻にくるような酸っぱさではない。  夏場は、たきたてのご飯に酢をまぜ、 団扇 であおいでいるときのような、蒸れたような酸っぱさだった。  ひんやりした時候になると、 海苔巻 や 稲荷 ずしの匂いになった。  うち全体が匂うのである。  いや、うちも人も、酸っぱい匂いがした。
向田邦子 / 酸っぱい家族「思い出トランプ(新潮文庫)」に収録 ページ位置:68% 作品を確認(amazon)
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......が、まだ東京には焼跡も多かったから、陣内写真館のような住まいはそう珍しいとはいえなかったが、近い親戚に焼け出されのない九鬼本には、驚くことばかりであった。 一番驚いたのは匂いである。 ひどく酸っぱい。 九鬼本は、はじめ、五目ずしでも大量に作ったのかと思った。営業用の現像液の匂いかと思ったが、そうではないらしかった。 酸っぱい、といったところで、ツーンと鼻にくるような酸っぱさではない。 夏場は、たきたてのご飯に酢をまぜ、団扇であおいでいるときのような、蒸れたような酸っぱさだった。 ひんやりした時候になると、海苔巻や稲荷ずしの匂いになった。 うち全体が匂うのである。 いや、うちも人も、酸っぱい匂いがした。 この茶碗も、どこかの焼跡から拾って来たのではないかと思い、お代りを辞退して、おもてへ出ると、陣内が追いかけてくる。 小柄な体をすり寄せ、九鬼本のポケットに封筒......
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