彼らはまるで涸れた井戸に石でも放り込むように僕に向って実に様々な話を語り、そして語り終えると一様に満足して帰っていった。《…略…》誰もが誰かに対して、あるいはまた世界に対して何かを懸命に伝えたがっていた。それは僕に、段ボール箱にぎっしりと詰め込まれた猿の群れを思わせた。僕はそういった猿たちを一匹ずつ箱から取り出しては丁寧に埃を払い、尻をパンと叩いて草原に放してやった。
村上 春樹 / 1973年のピンボール ページ位置:0% 作品を確認(amazon)
この表現が分類されたカテゴリ
饒舌・喋りまくる
聞き上手
しおりに登録する
前後の文章を含んだ引用
......極端に不足していた時代であったらしく、誰も彼もが親切にそして熱心に語ってくれた。見ず知らずの人間が何処かで僕の噂を聞きつけ、わざわざ話しにやって来たりもした。 彼らはまるで涸れた井戸に石でも放り込むように僕に向って実に様々な話を語り、そして語り終えると一様に満足して帰っていった。あるものは気持良さそうにしゃべり、あるものは腹を立てながらしゃべった。実に要領良くしゃべってくれるものもいれば、始めから終りまでさっぱりわけのわからぬといった話もあった。退屈な話があり、涙を誘うもの哀しい話があり、冗談半分の出鱈目があった。それでも僕は能力の許す限り真剣に、彼らの話に耳を傾けた。 理由こそわからなかったけれど、誰もが誰かに対して、あるいはまた世界に対して何かを懸命に伝えたがっていた。それは僕に、段ボール箱にぎっしりと詰め込まれた猿の群れを思わせた。僕はそういった猿たちを一匹ずつ箱から取り出しては丁寧に埃を払い、尻をパンと叩いて草原に放してやった。彼らのその後の行方はわからない。きっと何処かでどんぐりでも齧りながら死滅してしまったのだろう。結局はそういう運命であったのだ。 それはまったくのところ、労多くし......
単語の意味
草原(そうげん・くさはら)
尻・臀・後(しり)
猿(さる)
満足(まんぞく)
草原・・・一面に草が生えている広い野原。
尻・臀・後・・・1.腰のうしろ下部で、肉が豊かについている部位。座るときや腰をかけるときに下に位置するところ。肛門(こうもん)と尾てい骨がある辺り。尻(けつ)。臀部(でんぶ)。御居処(おいど)。
2.衣服の1にあたる部分。「ズボンの尻」
3.和服の腰から下の、裾(すそ)のほうの部分。
4.物事や長く続いているモノの、後方や一番あと。終わりの部分。しまい。最後。末端(まったん)。結果。
5.容器の外側の底の部分。また、果物の底部。「鍋の尻」
2.衣服の1にあたる部分。「ズボンの尻」
3.和服の腰から下の、裾(すそ)のほうの部分。
4.物事や長く続いているモノの、後方や一番あと。終わりの部分。しまい。最後。末端(まったん)。結果。
5.容器の外側の底の部分。また、果物の底部。「鍋の尻」
猿・・・1.ヒト以外の霊長類の総称。人間に似た哺乳動物。後ろ足でたったり前足で物を握ったりできる。音が「去る」と同じで忌み嫌われ、反対の意味の「得る」からエテ(得手)と代替することもある。
2.雨戸の桟(さん)に取り付けた戸締り道具。
3.囲炉裏(いろり)の自在鉤(じざいかぎ)を上げてとめておく用具。
2.雨戸の桟(さん)に取り付けた戸締り道具。
3.囲炉裏(いろり)の自在鉤(じざいかぎ)を上げてとめておく用具。
満足・・・1.自分の思い通りになって、不満がないこと。これ以上注文のつけようがないこと。申し分がないこと。
2.十分なこと。完全なこと。
2.十分なこと。完全なこと。
ここに意味を表示
饒舌・喋りまくるの表現・描写・類語(声・口調のカテゴリ)の一覧 ランダム5
小鳥がさえずるようにはばかりなくしゃべる
石坂 洋次郎 / 丘は花ざかり amazon
急に口の緊(しま)りが解けたような気がして、恐ろしく雄弁になった。
久米 正雄 / 競漕 amazon
機銃掃射のように発せられる質問
池井戸 潤「民王 (文春文庫)」に収録 amazon
このカテゴリを全部見る
聞き上手の表現・描写・類語(言葉を交わすのカテゴリ)の一覧 ランダム5
それはまったくのところ、労多くして得るところの少ない作業であった。今にして思うに、もしその年に「他人の話を熱心に聞く世界コンクール」が開かれていたら、僕は文句なしにチャンピオンに選ばれていたことだろう。
村上 春樹「1973年のピンボール (講談社文庫)」に収録 amazon
お隣の様子が嫌でも目に入っちゃうじゃないですか」 「そりゃ、当然でしょう」 辰川が真剣にうなずくと、誘われたように主婦が続けた。
翔田 寛「真犯人 (小学館文庫)」に収録 amazon
(純は)彼女がもっと喋りやすくなるように、適切な質問までしてあげる。彼女の声の波間に純の声がうまく滑り込んでゆくと、彼女は純の方に顔を向けてますますはしゃいで喋り続ける。
小川洋子 / ダイヴィング・プール「完璧な病室 (中公文庫)」に収録 amazon
受け止めてくれる。どんな言葉でも、たわいない話でも本気で耳をそばだててくれる。しゃべり者冥利につきるではないか。
あさの あつこ「ガールズ・ブルー〈2〉 (文春文庫)」に収録 amazon
このカテゴリを全部見る
「声・口調」カテゴリからランダム5
吉川英治 / 治郎吉格子
囁くがごとく呻くがごとく経文を誦する
菊池 寛 / 恩讐の彼方に amazon
対談は愉快な諒解によってではなく、言葉の循環に倦怠して、打ち切られた形であった。
宮本百合子 / 伸子
「言葉を交わす」カテゴリからランダム5
威圧できるというわけ、なん、や」 わけ、なん、やと語尾に力を入れてゆっくりと発音する
遠藤 周作「海と毒薬 (角川文庫)」に収録 amazon
私が 挨拶 をすると、いつも少し笑って「こんにちは」と言った。
吉本 ばなな「アムリタ〈上〉 (新潮文庫)」に収録 amazon
「だから……」 だから早くほんとうのことを奥さんに話した方がいい、そう言いかけて思いとどまる。
沼田 まほかる「彼女がその名を知らない鳥たち (幻冬舎文庫)」に収録 amazon
同じカテゴリの表現一覧
声・口調 の表現の一覧
言葉を交わす の表現の一覧
感情表現 大カテゴリ
感覚表現 大カテゴリ
人物表現 大カテゴリ