桜花を催す雨が二三日しとしと続く

冬と春との入れかわる三月だ。

春の初めの夜、闇の色合いや風の感触がやわらかい

春が近づいてから降る雪は湿って重い。

根雪が氷のように磐（いわ）になって、その上を雪解けの水が、一冬の塵埃（じんあい）に染まって、泥炭地（でいたんち）のわき水のような色でどぶどぶと漂っている。

目を背けたいようなまぶしい陽光の五月の街

風が吹くと、雪のように花びらが降ってきた。

梅花（うめ）が明るい。

冬と春との入れかわる三月だ。

雲はその平地の向うの果である雑木山の上に横（よこ）たわっていた。雑木山では絶えず杜鵑（ほととぎす）が鳴いていた。その麓（ふもと）に水車が光っているばかりで、眼に見えて動くものはなく、うらうらと晩春の日が照り渡っている野山には静かな懶（ものう）さばかりが感じられた。そして雲はなにかそうした安逸の非運を悲しんでいるかのように思われるのだった。

日暮れ近い穏かな初冬の陽が静かに褪（さ）めかけている。

闇は季節の変わり目の暗いみずみずしさをたたえ、吸う空気の中にも夢のような透んだ香りをたくさん含んでいた。

焼き芋食べたい！

春もやや準備が出来たといった工合（ぐあい）に、和やかなものが、晴れた空にも、建物を包む丘の茂みにも含みかけていた。

七時を過ぎたばかりの空からは、まだ薄い光が注いでいる。