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雲はその平地の向うの果である雑木山の上に横 たわっていた。雑木山では絶えず杜鵑 が鳴いていた。その麓 に水車が光っているばかりで、眼に見えて動くものはなく、うらうらと晩春の日が照り渡っている野山には静かな懶 さばかりが感じられた。そして雲はなにかそうした安逸の非運を悲しんでいるかのように思われるのだった。
梶井基次郎 / 蒼穹 ページ位置:17% 作品を確認(青空文庫)
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春の日差し・光
雲
遠くに見える・遠ざかる
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前後の文章を含んだ引用
......私にとってはその終日日に倦 いた眺めが悲しいまでノスタルジックだった。Lotus-eater の住んでいるといういつも午後ばかりの国――それが私には想像された。 雲はその平地の向うの果である雑木山の上に横 たわっていた。雑木山では絶えず杜鵑 が鳴いていた。その麓 に水車が光っているばかりで、眼に見えて動くものはなく、うらうらと晩春の日が照り渡っている野山には静かな懶 さばかりが感じられた。そして雲はなにかそうした安逸の非運を悲しんでいるかのように思われるのだった。 私は眼を溪 の方の眺めへ移した。私の眼の下ではこの半島の中心の山彙 からわけ出て来た二つの溪が落合っていた。二つの溪の間へ楔子 のように立っている山と、前方を屏風 の......
単語の意味
安逸・安佚(あんいつ)
雑木(ぞうき)
うらうら
春の日(はるのひ)
晩春(ばんしゅん)
照り渡る(てりわたる)
時鳥・不如帰・杜鵑・子規・社宇・郭公・霍公鳥(ほととぎす)
安逸・安佚・・・気軽に時を過ごすこと。のんびりぶらぶらと遊んで暮らすこと。
雑木・・・いろいろな木々。炭や薪にする以外使えない木の総称。
うらうら・・・1.日差しが明るく穏やかに照っているさま。
2.心が落ち着いて静かなさま。
2.心が落ち着いて静かなさま。
春の日・・・1.のどかな春の一日。
2.明るい春の太陽。春日。春陽(しゅんよう)。
2.明るい春の太陽。春日。春陽(しゅんよう)。
晩春・・・春の終わりのころ。暮春。陰暦3月の異名。
照り渡る・・・隅々まですっかり照らす。
時鳥・不如帰・杜鵑・子規・社宇・郭公・霍公鳥・・・カッコウ科の鳥。山地に住む、中形の鳥。俗に「テッペンカケタカ」と聞こえるように鳴く。自らは巣を作らず、ウグイスなどの巣に産卵し、抱卵・育雛を委ねる。
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日差しは暖かいが、夏はまだ遠く、町は落ち着いた雰囲気だった。
伊坂 幸太郎「陽気なギャングが地球を回す (祥伝社文庫)」に収録 amazon
燦々と金粉を振り撒くような五月の陽光
稲垣 足穂 / 弥勒 amazon
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雲の表現・描写・類語(空・中空のカテゴリ)の一覧 ランダム5
海原にかかる大瀑布のごとく、横にのびた巨大な渦巻く雲
阿川 弘之 / 雲の墓標 amazon
空には刷毛で引いたような細い雲が幾筋か流れ
村上 春樹「1973年のピンボール (講談社文庫)」に収録 amazon
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遠くに見える・遠ざかるの表現・描写・類語(距離のカテゴリ)の一覧 ランダム5
ミュウの姿は少しずつ小さくなり、ひとつのおぼろげな点になり、やがて陽炎の中に吸い込まれていった。それから町が遠ざかり、山のかたちが不確かになり、最後には島そのものが光のもやと絡み合うように、かすんで消えていった。
村上春樹「スプートニクの恋人 (講談社文庫)」に収録 amazon
降りしきる雪の中を、ただ一人だんだん遠ざかって、とうとうかすんで見えなくなってしまった。
有島武郎 / 生まれいずる悩み
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「空・中空」カテゴリからランダム5
水平線の上には猿人の頭骨のような形をした雲がひとつだけぽつんと浮かんでいた。雲はぴくりとも動かず、また動きそうな気配もなかった。それはどことなく頑迷そうな感じのする雲だった。漂白されたように真っ白で、輪郭はひどくはっきりしていた。
村上 春樹 / ダンス・ダンス・ダンス(下) amazon
午後の光にかがやいた湾のむこうに大きな入道雲が金色に縁どられながら 湧いていた。雲はなぜか空の宮殿のように白く巨大だった。
遠藤周作「沈黙(新潮文庫)」に収録 amazon
彼の心に密接な関係をもっているかのような星々の群が、空からその輝きを 撒いて、彼のこの心の中の混濁を洗うかのような感じがしていた。
野間 宏 / 暗い絵「暗い絵・顔の中の赤い月 (講談社文芸文庫)」に収録 amazon
「春」カテゴリからランダム5
晩春から初夏へ移り変わる山里の、新緑の美しさ
池波 正太郎 / 剣客商売 amazon
昼のうちむれていたアスファルトから生温かい風が吹いている或る晩
小林多喜二 / 党生活者
「距離」カテゴリからランダム5
うしろから追って来た足音が私の前へまわって、
池波 正太郎「食卓の情景 (新潮文庫)」に収録 amazon
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