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もともと、魅力的な体を持った黒人だと思ったが、野卑なようすは隠せなかった。が、今はそれが完全に消されて、洗練された香りが、黙っていても滲み出て来る。熱く煮えたぎった激しさを知性で上手に包み込んでいるといった雰囲気が漂っている。そのスマートな容姿に魅かれて近づいた女は彼の衣服の陰から見え隠れする 獰猛 さと、すさまじいほどの性的なニュアンスに度肝を抜かれる
山田詠美「新装版 ハーレムワールド (講談社文庫)」に収録 ページ位置:72% 作品を確認(amazon)
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前後の文章を含んだ引用
......ある。この洋服を気に入らないと言う女にお目にかかってみたいものだ。 それにしても、とシンイチは思う。自分と暮し始めてスタンはずいぶん人目を引く男になったと思う。もともと、魅力的な体を持った黒人だと思ったが、野卑なようすは隠せなかった。が、今はそれが完全に消されて、洗練された香りが、黙っていても滲み出て来る。熱く煮えたぎった激しさを知性で上手に包み込んでいるといった雰囲気が漂っている。そのスマートな容姿に魅かれて近づいた女は彼の衣服の陰から見え隠れする獰猛さと、すさまじいほどの性的なニュアンスに度肝を抜かれるのではないか。と、同時に、口から流れでる言葉のあどけなさに感動で息が詰まるのではないか。「あんまり目立つなよ。おまえは出歩く身分じゃあないんだから」「大丈夫だよ......
単語の意味
獰猛(どうもう)
体(からだ)
容姿(ようし)
洗練・洗煉・洗錬(せんれん)
獰猛・・・乱暴な性格で、周りに危害を加えそうなさま。
・・・頭・胴・手足など、肉体全体をまとめていう言葉。頭からつま先までの肉体の全部。身体。体躯。五体。健康。体力。
容姿・・・顔かたちや姿。顔立ちと体つき。
洗練・洗煉・洗錬・・・物を洗ったり練(ね)ったりして仕上げるように、文章や人格などを美しく磨かき整えること。磨き上げて、全体として無駄のない出来ばえに仕上げること。垢抜けたものにすること。
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(女に対して堂々としている、女心をわかっている)かの女は、むす子が頑是ない時分から、かの女の有りあまる、担い切れぬ悩みも、嘆きも、悲しみも、恥さえも、たった一人のむす子に注ぎ入れた。判っても、判らなくても、ついほかの誰にも云えない女性の嘆きを、いつかむす子に注ぎ入れた。《…略…》稚純な母の女心のあらゆるものを吹き込まれた、このベビー・レコードは、恐らく、余白のないほど女心の痛みを刻み込まれて飽和してしまったのではあるまいか。この二十歳そこらの青年は、人の一生も二生もかかって経験する女の愛と憎みとに焼けただらされ、大概の女の持つ範囲の感情やトリックには、不感性になったのではあるまいか。そう云えば、むす子の女性に対する「怖いもの知らず」の振舞いの中には、女性の何もかもを呑み込んでいて、それをいたわる心と、あきらめ果てた白々しさがある。そして、この白々しさこそ、母なるかの女が半生を嘆きつくして知り得た白々しさである。その白々しさは、世の中の女という女が、率直に突き進めば進むほど、きっと行き当る人情の外れに垂れている幕である。冷く素気なく寂しさ身にみる幕である。死よりも意識があるだけに、なお寂しい肌触りの幕である。女は、いやしくも女に生れ合せたものは、愛をいのちとするものは、本能的に知っている。いつか一度は、世界のどこかで、めぐり合う幕である。むす子の白々しさに多くの女が無力になって幾分へつらい懐しむのには、こういう秘密な魔力がむす子にひそんでいるからではあるまいか。そしてこの魔力を持つ人間は、女をいとしみ従える事は出来る。しかし、恋に酔うことは出来ない。あわれなわが子よ。
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