向うの岩の割目から、水晶の綿のような雲が湧き出て

空は朗らかに晴れ、絵巻のように黄金に輝いた雲が浮かんでいた

刷毛でなすったような白い雲の筋が浮かぶ

棒のような雲

凍った雲は幕のように空低くかかっている。

大気との摩擦熱で燃え上がり、岩塊がガラス質となり、宝石のように輝いている。

月の輝きを無心に眺めているうちに、天吾の中に古代から受け継がれてきた記憶のようなものが呼び起こされていった。人類が火や道具や言語を手に入れる前から、月は変わることなく人々の味方だった。それは天与の灯火として暗黒の世界をときに明るく照らし、人々の恐怖を和らげてくれた。その満ち欠けは時間の観念を人々に与えてくれた。月のそのような無償の慈悲に対する感謝の念は、おおかたの場所から闇が放逐されてしまった現在でも、人類の遺伝子の中に強く刷り込まれているようだった。集合的な温かい記憶として。

芝居の書き割りのような乾いた空

鈍い青色をしている空

層となって重なり合う雲の向こうのそのまた向こうの雲の奥に、本物の太陽が見え隠れしている。