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(ジャングルをさまよう日本兵のが感じた死の予感)比島の熱帯の風物は私の感覚を快く揺った。マニラ城外の柔らかい芝の感覚、スコールに洗われた 火焔 樹 の、眼が覚めるような朱の 梢、原色の朝焼と夕焼、紫に 翳る火山、 白浪 をめぐらした 珊瑚礁、水際に蔭を含む叢等々、すべて私の心を 恍惚 に近い歓喜の状態においた。こうして自然の中で絶えず増大して行く快感は、私の死が近づいた確実なしるしであると思われた。
大岡 昇平「野火(新潮文庫)」に収録 ページ位置:6% 作品を確認(amazon)
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余命宣告・死の覚悟
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前後の文章を含んだ引用
......。好む時にまた来る可能性が、意識下に仮定されているためであろうか。してみれば我々の所謂生命感とは、今行うところを無限に繰り返し得る予感にあるのではなかろうか。 比島の熱帯の風物は私の感覚を快く揺った。マニラ城外の柔らかい芝の感覚、スコールに洗われた火焔樹の、眼が覚めるような朱の梢、原色の朝焼と夕焼、紫に翳る火山、白浪をめぐらした珊瑚礁、水際に蔭を含む叢等々、すべて私の心を恍惚に近い歓喜の状態においた。こうして自然の中で絶えず増大して行く快感は、私の死が近づいた確実なしるしであると思われた。 私は死の前にこうして生の氾濫を見せてくれた偶然に感謝した。これまでの私の半生に少しも満足してはいなかったが、実は私は運命に恵まれていたのではなかったか、という......
単語の意味
恍惚(こうこつ)
歓喜(かんき)
風物(ふうぶつ)
紫(むらさき)
快感(かいかん)
恍惚・・・うっとりした状態。放心状態のような気持ちで心を奪われたさま。
歓喜・・・大喜び。心の底から喜ぶこと。
快感・・・快(こころよ)い感じ。満ち足りた感じ。いい気持ち。
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(弟の余命は十三カ月と告げられる)「十三カ月……」 その数字をかみくだくのに、少し時間がかかった。今まで十三カ月などという数字について、しみじみと考えたことがなかったからだ。十三カ月で人は何ができるのだろう。赤ん坊なら立って歩くことを覚える。浪人生は大学生になり、恋人同士は夫婦になる。いろいろな尺度でその数字を測ろうとした。けれど、弟にとっての十三カ月がどんなものになるのか想像しようとすると、胸の中で、熟れすぎた果肉がべちゃべちゃと潰れていくように気持ち悪く息苦しくなって、うまく考えをまとめることができなくなった。
小川洋子 / 完璧な病室「完璧な病室 (中公文庫)」に収録 amazon
突然、死の割れ目が足もとに見えてきた
松本 清張 / 与えられた生「松本清張ジャンル別作品集(3) 美術ミステリ (双葉文庫)」に収録 amazon
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死を細かいちりみたいに肺の中に吸い込みながら生きる
村上 春樹 / 螢・納屋を焼く・その他の短編 amazon
鋭い目をした野鳥のように飛びこんできた
芝木 好子 / 隅田川暮色 amazon
まるで列車が少しずつ速度を落として停止に向かうときのように(生命力の推移は少しずつ下がっていく。《…略…》)父親という列車は徐々にスピードを落とし、惰性が尽きるのを待ち、何もないがらんとした平原の真ん中に静かに停止しようとしている。ただひとつの救いは、車内にはもう、一人の乗客も残ってはいないということだ。列車がこのまま停止しても、そのことで苦情を申し立てる人間はいない。
村上 春樹 / 1Q84 BOOK 2 amazon
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