林の中は暗く道は細かった。 樫 や 櫟 に似た大木の聳える間を、名も知れぬ低い雑木が 隙間 なく埋め、 蔦 や 蔓 を張りめぐらしていた。四季の別なく落ち続ける、熱帯の落葉が道に朽ち、柔らかい感触を 靴 裏 に伝えた。静寂の中に、新しい落葉が、 武蔵野 の道のようにかさこそと 足許 で鳴った。
大岡 昇平「野火(新潮文庫)」に収録 ページ位置:4% 作品を確認(amazon)
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森林・ジャングル
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前後の文章を含んだ引用
......同じ谷間へ入る道である。丘越えの道が無論近いが、私は既に昨日から二度往復してその道に飽きていた。目的のない者の気紛れから、私は未知の林中の道を取る気になった。 林の中は暗く道は細かった。樫や櫟に似た大木の聳える間を、名も知れぬ低い雑木が隙間なく埋め、蔦や蔓を張りめぐらしていた。四季の別なく落ち続ける、熱帯の落葉が道に朽ち、柔らかい感触を靴裏に伝えた。静寂の中に、新しい落葉が、武蔵野の道のようにかさこそと足許で鳴った。私はうなだれて歩いて行った。 奇怪な観念がすぎた。この道は私が生れて初めて通る道であるにも拘らず、私は二度とこの道を通らないであろう、という観念である。私は立ち......
単語の意味
雑木(ぞうき)
静寂(せいじゃく)
雑木・・・いろいろな木々。炭や薪にする以外使えない木の総称。
静寂・・・物音一つなく静まり返っていること。ひっそりとして寂しさのあること。また。そのさま。「寂」は訓読みで「しず(か)」とも読める。
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森林・ジャングルの表現・描写・類語(地上・陸地のカテゴリ)の一覧 ランダム5
明るいが、どこか総体に冷たく沈んだ瀬戸物の絵のような、伊豆の美しい雑木林の風景
井上 靖 / 猟銃「猟銃・闘牛 (新潮文庫)」に収録 amazon
山肌を這いのぼってきた若松の香気が、灰を驚かすほどの冷たさ
高樹 のぶ子 / 光抱く友よ amazon
笹地に白々と骨を立てたような枯れ木の原
高田 宏 / 木に会う amazon
ひしめき叢(むらが)る樹木つづきの緑の海
本庄 陸男 / 石狩川〈上〉 amazon
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「地上・陸地」カテゴリからランダム5
島々の峰の線がいかにも力強く美しく眺められた。曇り日を背にした方が殊に輪郭がくっきりとよく見えた。彼は 市 の瓢簞屋で見た割れ 瓢 の割れ目の線を 想い出した。自然の作る線、これにはやはり共通な力強さ、美しさがある事に感服した。
直哉, 志賀「暗夜行路 (新潮文庫)」に収録 amazon
南画からそっくり抜け出したような嶮しい山
竹西 寛子 / 長城の風 amazon
富士山のてっぺんに、ガラス綿のようなちぎれた雲が、かんむりみたいに、馬の吐く息みたいにかかる
阿部 昭 / 千年・あの夏 amazon
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