父親は途切れることのない昏睡の中にいた。麻痺が慈悲深い衣のように、彼の全身を包んでいる。

意識も感覚も失われ、生命維持装置によってただ機械的に生かされている、生きる屍

明け方から大きないびきをかき始めて、それから一度も目を開かない

夢の世界に行ったきり

天岩戸に、天照が隠れちまったのと一緒だな。渉が寝たきりだから、こっちの世界は真っ暗だ。

息苦しさに 堪らなくなり、大きく息を吐くと、パーキング・エリアの幻は消えて、三島署の執務室に引き戻されていた。

腕を組んで考えこむ

自分は自分の自由を享楽していることであろう。伸子には、夫をつれて来て、この悦びや鮮やかな自然の印象を分ちたい気持が起らなかった。彼女の気持は逆であった。彼女は、この山々を、この矮樹林を、自分だけで眺められるからこそ、嬉しいのであった。傍から誰にも妨げられず、心全面で眺め、味い、感覚する、この快さこそ、実に彼女に、久しく失っていた自由の蘇生を感じさせるものなのであった。

目がまわる忙しさ

無知は時に武器となり、勇気となるが、必要以上の不安のもとともなる。