鰯雲がかたくりのように筋を引いてゆく
林芙美子 / 新版 放浪記 ページ位置:45% 作品を確認(青空文庫)
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薄く広がった雲
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......上にぶらさがっているあの牛は、二三日の内には屠殺 されてしまって、紫の印を押されるはずだ。何を考えているのかしら……。船着場には古綿のような牛の群が唸っていた。 鰯雲がかたくりのように筋を引いてゆくと、牛の群も何時 か去ってゆき、起重機も腕を降ろしてしまった。月の仄 かな海の上には、もう二ツ三ツおしょうろ船が流れていた。火を燃やしながら美しい紙船が、雁木 を離れ......
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今にも雪が降りそうだったが、まだ降り始めてはいなかった。雲はぴくりとも動かず、「ガリバー旅行記」に出てくる空に浮かぶ国みたいに、都市の頭上を重たく覆っていた。地上にある何もかもが灰色に染まって見えた。フォークもサラダもビールもみんな灰色に見えた。こういう日にはまともな事なんて何も思いつけない。
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月が真綿雲の間をゆっくりと歩いていく
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