いったいこの奇妙な雰囲気はどうしたのだろう? ここはホテルのロビイだというのに周囲のさんざめきは遠く消えてしまって、まるでサン・ジェルマン氏と私とがたった二人で音のない空間を占拠しているみたいではないか。《…略…》さながらガラス越しに水族館の景色を見るように人波が 蠢いているだけだ。
阿刀田 高 / サン・ジェルマン伯爵考「ナポレオン狂 (講談社文庫)」に収録 ページ位置:69% 作品を確認(amazon)
この表現が分類されたカテゴリ
二人きり
奇妙な感覚
しおりに登録する
前後の文章を含んだ引用
......ょう?」 彼はトランプのジョーカーのように終始含み笑っていて、どんな質問に対してもこともなげに答えてくれそうだ。笑顔がゆらゆら揺れて魔術師のようだ。 それに……いったいこの奇妙な雰囲気はどうしたのだろう? ここはホテルのロビイだというのに周囲のさんざめきは遠く消えてしまって、まるでサン・ジェルマン氏と私とがたった二人で音のない空間を占拠しているみたいではないか。「あなたは本当にサン・ジェルマン伯爵でいらっしゃるんですね」「そうですよ」「歴史的に名高い……?」「それほどのこともありません」 彼は照れくさそうに、しかし肯定......<中略>......「では、お見せください」 私は一瞬、こう願ったとたんなにかおぞましい異変が突如として起こるのではあるまいか、そんな危惧を覚えたが、あたりは少しも変わることなく、さながらガラス越しに水族館の景色を見るように人波が蠢いているだけだ。「ただ……」 サン・ジェルマン氏が小首を傾げた。「はい?」「ただエレキシィは皆さんがお考えになっておられるような粉薬でもなければ水薬でもありません。エレキシィは......
単語の意味
さんざめき
蠢く(うごめく)
景色(けしき)
さんざめき・・・ざわざわと騒ぐこと。にぎやかに騒ぎ立てること。さざめき。
蠢く・・・足の無い虫がはうように、休む間もなくモゾモゾ動く。落ち着きなく絶えずピクピク動く。
景色・・・風景。眺め。とくに、自然の眺め。
ここに意味を表示
二人きりの表現・描写・類語(人間関係・地位のカテゴリ)の一覧 ランダム5
天と地との間で広い畑の真ン中に二人が話をしているのである。
伊藤左千夫 / 野菊の墓
囲炉裏のそばには、君と君の妹だけが残るのだ。 時が静かにさびしく、しかしむつまじくじりじりと過ぎて行く。
有島武郎 / 生まれいずる悩み
このカテゴリを全部見る
奇妙な・不思議な感覚の表現・描写・類語(ものの性質・特徴のカテゴリ)の一覧 ランダム5
その時はただこわかったが実は、こわいと言うよりも不思議なことだった。
吉本 ばなな「アムリタ〈上〉 (新潮文庫)」に収録 amazon
こころなしかあたりの空気も酔うように重く澱んでいる。どれもこれもささいなことだが、少しずつ現実とは違った世界に足を踏み入れているような気配を覚えた。
阿刀田 高 / 透明魚「ナポレオン狂 (講談社文庫)」に収録 amazon
えたいの知れない想い出が湧いて来る。
梶井基次郎 / 城のある町にて
このカテゴリを全部見る
「ものの性質・特徴」カテゴリからランダム5
眼で見ていながら信ずる事が出来ない
夢野久作 / あやかしの鼓
(曲解)田村の曲解に、津野も苦笑いを浮かべるしかない。
池井戸潤「下町ロケット (小学館文庫)」に収録 amazon
眩 ゆい外の光景を 眺めると、だんじりも船の群れも、遠い夢の中の 煌めきのように思われる。
宮本 輝 / 泥の河「螢川・泥の河(新潮文庫)」に収録 amazon
「人間関係・地位」カテゴリからランダム5
他人の弱みにつけこんでダニみたいに喰らいつく
宮本 輝 / 夢見通りの人々 amazon
竜一郎は安心させる。ほかの人間とは違う。私に理解できないことを、いかなる次元でもしない。たとえ人を殺したとしても、それが私のとても親しい人だったとしても、彼のことならと最終的には私は納得するだろう。 理屈ではなく、彼の持つ空気なのだ。
吉本 ばなな「アムリタ〈上〉 (新潮文庫)」に収録 amazon
(赤ん坊をあやす)赤ん坊をおぶって廊下を何度も行ったり来たりして
林芙美子 / 新版 放浪記
神さまの悪戯としか言いようのない、不思議な出会いだった。
阿刀田 高 / 狂暴なライオン「ナポレオン狂 (講談社文庫)」に収録 amazon
同じカテゴリの表現一覧
ものの性質・特徴 の表現の一覧
人間関係・地位 の表現の一覧
感覚表現 大カテゴリ