硝子戸はまるでカアテンを吊したように雨で白く煙っている。

（空港の風景）十一月の冷ややかな雨が大地を黒く染め、雨合羽を着た整備工たちや、のっぺりとした空港のビルの上に立った旗や、BMWの広告板やそんな何もかもをフランドル派の陰うつな絵の背景のように見せていた

泥だらけの道には人影もありません。こんな道を見ていますと私はなぜか、人生を思い、悲しくなります。

野も丘も雨に煙っていた。風と音が来て、雨が幕を引くように、片側から風景を打ち消した。

強いライトで照らされた「若葉」の巨大な看板が、濡れた地面に反射して幻想的に揺れている。

花火のような色さまざまなイルミネーション

周囲が真暗なため、店頭に点（つ）けられた幾つもの電燈が驟雨（しゅうう）のように浴びせかける絢爛（けんらん）は、周囲の何者にも奪われることなく、ほしいままにも美しい眺めが照らし出されている

（遠くに見える歓楽街の光）心の中には、幸橋の上から 眺めた道頓堀の遠い 光芒こうぼう が映し出された。 眩まば ゆく華やかな眺めであったはずだったが、邦彦には、かつて見たこともない冷え冷えとした、ひどくちっぽけな景観として心に 甦って来るのである。 　色とりどりの光をまとった船が、暗い海原に出航して行き、それを視界から消え去るまでじっと見送っていた、そんな空虚な寂しさがまといついて、邦彦は幸橋から見えていた夜の道頓堀が、人気のない一 艘そう の満艦飾の船みたいだったように思えるのだった。

街は雪解けで仄明（ほのあか）るい街のネオンサインが間抜けてみえる。

多彩なネオンの縞が輝く夜

お湯に浸かり、海藻のように頼りなくたゆたう陰毛

遊女屋の行燈（あんどん）が、椿（つばき）のように白く点々と見えている。

橋のどこかが軋んでいるのが、なにか小鳥の鳴き声のようにきこえていた

遠い街道の孤独の電燈を眺めた。深い闇のなかから遠い小さな光を跳めるほど感傷的なものはない

蒸し暑さに電灯に灯まで汗をかいたように濡れて見える

ほとんど咽ぶような霧に包まれて

雨は、空の底が抜けたように突然降りはじめて

どての夏草は、もうしっとりと、夜露をふくんでいる

びしょびしょの人魚のようにべったり 濡れたさせ子が重そうな足取りで浜に上がってきて

標識はまるで誰かが息でも吹きかけてくれたかのように、一瞬だけ切れた霧の中から現れた。