風が、ほつれ毛を弄ぶように襟元をくすぐる

若葉が風にまるでほどけて行くようであった。

風が急にマストを鳴らして吹いて行った。

風だけが草原を吹きわたっていた。まるでこの草原が風の特殊な通り道であるかのように見えた。風は重要な使命を帯びて先を急いでいるんだとでもいうように、あともふりかえらずに草原を走り抜けていった。

理科室の水槽の磯臭いにおいを乗せた窓からの風

屋根まで吹き飛ばしそうな突風

夜風の吹き渡る往来は多少胃の痛みの薄らいだ僕の神経を丈夫にした。

じっと耳を澄ましているとほんのわずかの風の切れめから女の声らしきものがちらりと聞こえたような気がしたが、それもあるいは僕の錯覚かもしれなかった。

誰かが教室のドアを開けた。冷たい空気が、愛子の頰を叩く。

行き場のない考えごとを涼しい風がさらってゆく。ビルの谷間にそれは暗くよどんで 闇 をつくる。