風のないせいか、街は しん としていた。

ひと揺れの風もない

空にはいくつか小さな雲が浮かんでいたが、それらはまるで中世の銅版画の背景に描きこまれた雲のように鮮明で簡潔なかたちをとっていた。目につく何もかもが見事にくっきりとしているせいで、僕自身の肉体がいかにも茫洋としてとりとめのない存在であるように感じられた。

空気は透明でそよりともしない。

風が 凪いで、迎え火の煙が庭先にわだかまった。

寒い風が 刈田 を 渡って 吹いた。

開かれた窓から風が入ってきた。風はカーテンを翻し、鉢植えの花弁を揺らし、開け放しになったドアから廊下に抜けて行った。

引っかくような痛さを伴った寒風

吹きゆく風のささやき

麦わら帽子が、その風にさらわれた。あっと叫んだ時には、もうかなり高く舞い上がり、そのまま、海へと運ばれていく。波の上に、ふわりとかぶさった。