あぶら蝉があつさをかきたてるように鳴いている

彼は汽車の窓から 飽かず外の景色を眺めて来た。盛夏の力というようなものが感ぜられ、彼は近頃に珍しく元気な気持になった。

日の光に照りつけられた大路には、あまりの暑さにめげたせいか、人通りも今はひとしきりとだえて

旱（ひでり）のためうんかがたくさん田に湧いたのを除虫燈で殺している。

（店内）季節感はゼロ。ただ、異常に効きすぎた冷房だけが季節が夏へと変化していることを知る唯一の手段である。

空がギラギラと白っぽい

白く濁った、熱く甘い夏を含んだ雲

麦秋（むぎあき）によくある薄曇りの日

夏の勢いにあふれた、すごい青空だった。まぶしくて、そこいらじゅう光って見えた。こういう日が何日も続いて、本当の暑さがやって来る。好きな季節だ。

トルコ石のような夏の午前の空

（雨季）雨はシャワーのように機械的に連続して降り、ぴたりと 止み、また不意に、 栓 をひねったように落ちて来た。そうして幾日も幾日も降った。

三月の半ば頃私はよく山を蔽（おお）った杉林から山火事のような煙が起こるのを見た。それは日のよくあたる風の吹く、ほどよい湿度と温度が幸いする日、杉林が一斉に飛ばす花粉の煙であった。しかし今すでに受精を終わった杉林の上には褐色がかった落ちつきができていた。瓦斯（ガス）体のような若芽に煙っていた欅（けやき）や楢（なら）の緑にももう初夏らしい落ちつきがあった。闌（た）けた若葉がおのおの影を持ち瓦斯体のような夢はもうなかった。ただ溪間にむくむくと茂っている椎（しい）の樹が何回目かの発芽で黄な粉をまぶしたようになっていた。

天地が若々しく冴え冴えしい初夏

風鈴の涼しげな音

螢（ほたる）が一匹庭の木立ちを縫って通り過ぎた。