(心から愛せない)しかし彼女を愛することはできなかった。すみれと一緒にいるときにぼくがいつも感じる、あのほとんど無条件と言ってもいいような自然な親密さが、彼女とのあいだにはどうしても生まれなかったからだ。そこにはいつも一枚、薄い透明なヴェールのようなものがあった。見えるか見えないかという程度のものだったが、でもそれが隔たりであることに変わりはない。そのせいで、二人で顔を合わせているときに──とくに別れ際に──何を口にすればいいのかわからなくなってしまうことがあった。
村上春樹「スプートニクの恋人 (講談社文庫)」に収録 ページ位置:35% 作品を確認(amazon)
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......ファーストクラスに乗ったような気分にさせてくれた。「夫とはもう一年近くしていないの」と彼女はぼくの腕の中で一度打ち明けるように言った。「あなたとしかしてない」 しかし彼女を愛することはできなかった。すみれと一緒にいるときにぼくがいつも感じる、あのほとんど無条件と言ってもいいような自然な親密さが、彼女とのあいだにはどうしても生まれなかったからだ。そこにはいつも一枚、薄い透明なヴェールのようなものがあった。見えるか見えないかという程度のものだったが、でもそれが隔たりであることに変わりはない。そのせいで、二人で顔を合わせているときに──とくに別れ際に──何を口にすればいいのかわからなくなってしまうことがあった。それはすみれと一緒にいるときには経験したことのない思いだった。ぼくが彼女と会うことによっていつも確認するのは、自分がどれくらいすみれを必要としているかという、動......
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ベール
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小川洋子 / 揚羽蝶が壊れる時「完璧な病室 (中公文庫)」に収録 amazon
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