巨大な苔むした木々が鬱蒼（うっそう）と茂る

林を行く狭い道は湿っていて、蹠（あしうら）に弾むような感じがある

漆のごとく森が黒い

日かげと小さな湖を内包した森

林の中は暗く道は細かった。 樫かし や 櫟くぬぎ に似た大木の聳える間を、名も知れぬ低い雑木が 隙間 なく埋め、 蔦つた や 蔓つる を張りめぐらしていた。四季の別なく落ち続ける、熱帯の落葉が道に朽ち、柔らかい感触を 靴くつ 裏うら に伝えた。静寂の中に、新しい落葉が、 武蔵野 の道のようにかさこそと 足許あしもと で鳴った。

相変わらずの田園風景だった。灰色の砂利に、刈り株だけの田圃、空は雲を散らしている。

夕方になって陽がかなたへ傾くと、富士も丹沢山も一様の影絵を、茜（あかね）の空に写す

異議を挟む余地もなく美しい風景

坂を下りるにつれて星が雑木林の蔭へ隠れてゆく。

（バラ園）薔薇以外の植物を探すのが困難なほど、いっさいが薔薇で埋め尽くされている。「カクテル」「パレード」「マリア・カラス」など品種は様々。鉢植えのものもあれば花壇に茂るもの、壁や支柱に絡みながら伸びるものなど、形もいろいろだ。しかも五月下旬のこの季節は薔薇の開花の時季。いままさに咲き誇らんとする色とりどりの薔薇がそこら中に溢れて、あたりは濃厚な香りと色彩に満たされている。それは息苦しささえ感じるほどの光景である。