官庁街の素気なく白々しい建物の数々。

大小約二百の楼が、川水に傘をひろげたように軒端を映してならんでいる

右隣にも、ほとんど同じ造りの家が二棟建っていた。たぶん、同じ大家が建てた借家だろう。

稲妻形に曲るいくつもの横町

岩山の麓に寄り合うようにして固まっている数軒の家

喧騒の渦の音が不安な魅力で人々を吸い付けている市の中心

道の両側に所狭しと並ぶ店の猥雑な活気

トンネルから光の輪が現れた。雪の 帳とばり を突いてきたのは、たくましいＤＤ１５のラッセルだ。

（なんだかここら惹かれる風景）ただそれだけの眺めであった。どこを取り立てて特別心を惹（ひ）くようなところはなかった。それでいて変に心が惹かれた。 　なにかある。ほんとうになにかがそこにある。と言ってその気持を口に出せば、もう空ぞらしいものになってしまう。《…略…》人種の異ったような人びとが住んでいて、この世と離れた生活を営んでいる。――そんなような所にも思える。とはいえそれはあまりお伽話（とぎばなし）めかした、ぴったりしないところがある。《…略…》そこに限って気韻が生動している。そんなふうに思えた。

多摩川にせり出した、切り立った崖