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(素晴らしい思い出とぱっとしない現在の比較)あの数時間が、自分の人生には、またとないほどの輝きを放っていることに、彼はほとんど奇跡的なものを感じた。うっとりとした心地になり、胸を締めつけられ、そして最後には、決まってなんとなく不安になった。 その理由が、蒔野にはよくわからなかった。あまりに眩しすぎて、ふと現実に戻ると、その残像が反転して影のように残った。通念的な懐疑から、そういう美しい瞬間の群は、渓流に棲む鮎のようなもので、ただ濁りなく澄みきった場所にだけ棲むことが出来、日常の下流へと流されてしまえば、 悉く死に絶えてしまうのではと疑われた。
平野 啓一郎「マチネの終わりに (文春文庫)」に収録 ページ位置:37% 作品を確認(amazon)
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冴えない、ぱっとしない人生
思い出・思い出に浸る
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前後の文章を含んだ引用
......鮮やかに、陰翳豊かに彼の過去を染め直しつつあった。 コンクールの優勝でもコンサートの成功でもなく、ただ談笑しながら食事をして、リラックスしてギターを弾いただけのあの数時間が、自分の人生には、またとないほどの輝きを放っていることに、彼はほとんど奇跡的なものを感じた。うっとりとした心地になり、胸を締めつけられ、そして最後には、決まってなんとなく不安になった。 その理由が、蒔野にはよくわからなかった。あまりに眩しすぎて、ふと現実に戻ると、その残像が反転して影のように残った。通念的な懐疑から、そういう美しい瞬間の群は、渓流に棲む鮎のようなもので、ただ濁りなく澄みきった場所にだけ棲むことが出来、日常の下流へと流されてしまえば、悉く死に絶えてしまうのではと疑われた。 ジャリーラという特別な存在のせいかもしれない。彼女のおかげで、蒔野は洋子と、ただ二人で向かい合うだけでなく、同じ相手のことを二人で一緒になって心配し、慰め、真......
単語の意味
胸(むね)
鮎・香魚・年魚(あゆ)
鮎・香魚・年魚・・・アユ科の川魚。日本各地の清流に生息。背中は青黒くて腹は黄白色。餌の珪藻類(けいそうるい)に似た香りがあるので「香魚」の字を当てる。寿命は普通1年なので「年魚」の字を当てることもあるが、越年鮎も知られている。食用。ちなみに古来「鮎」の字は鯰を意味した。
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冴えない、ぱっとしない人生の表現・描写・類語(人生のカテゴリ)の一覧 ランダム5
くねくねと曲がる道を、まるで先の見えない自分の人生のようだと感じながら、進んでいた。緩やかに下っていくところなどはさらに似ていた。
伊坂 幸太郎 / ラッシュライフ amazon
株なんかにうつつを抜かして生涯を送った生活が、いまでは馬鹿な芝居をみて来たような気もする。
林 芙美子 / 松葉牡丹「林芙美子傑作集 (1951年) (新潮文庫〈第201〉)」に収録 amazon
振り返ってみると、それは人生ですらないような気がする。少し起伏はあった。ごそごそと登ったり降りたりはした。でもそれだけだった。殆んど何もしていない。何も生み出していない。誰かを愛したことはあったし、誰かに愛されたこともあった。でも何も残っていない。奇妙に平坦で、風景が平板だ。まるでビデオ・ゲームの中を歩いているみたいな気がする。パックマンみたいだ。ぱくぱくぱくと迷路の中の点線を食べていく。無目的に。そしていつか確実に死ぬ。
村上 春樹 / ダンス・ダンス・ダンス(下) amazon
幸せから逃げているみたいな人ですよ
翔田 寛「真犯人 (小学館文庫)」に収録 amazon
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思い出・思い出に浸るの表現・描写・類語(記憶のカテゴリ)の一覧 ランダム5
苦しかった若い日の数々のできごとが、今となっては楽しい思い出に転化している
壷井 栄 / 草の実 (1962年) amazon
たゞ一つ残って居る美しい夢
岡本かの子 / 巴里祭
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「記憶」カテゴリからランダム5
(時々思い出す)何か本当の忘却というのではないが、池のおもてに張った薄氷のような忘却が、まず朝子の悲しみの記憶を覆った。この氷は稀に破れた。しかし一夜にしてまた同じ水面を覆い隠した。
三島由紀夫 / 真夏の死 amazon
「あんたのお父さん、腕のええ船頭やったそうやなあ」 喜一は黙っていた。父親のことは記憶にないようだった。
宮本 輝 / 泥の河「螢川・泥の河(新潮文庫)」に収録 amazon
背は、高かったと思う。それとも背筋がすっと伸びていて、首が長かったからそう見えたのかもしれない。
浅田次郎 / 伽羅「鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫)」に収録 amazon
思い出が、透きとおった清らかな氷のかけらのように、胸の底に沈んでいる
石坂 洋次郎 / 丘は花ざかり amazon
「人生」カテゴリからランダム5
その一日は、謂わば偶然心持の上へ陰翳がかさなり合ったのであった。
宮本百合子 / 伸子
同じ場面を与えられることは二度とない。その一瞬一瞬に、人の生きざまは決まるのだ。
横山 秀夫「クライマーズ・ハイ (文春文庫)」に収録 amazon
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