(夕方、競技場の影)競技場を 挟んでちょうど真向かいにあたる観覧席の上段に、三本のポールが立っていて、それが邦彦と老人のいる場所まで長い影を落としていた。三本の影は、楕円形の競技場の中心を貫いて、邦彦の背後のまだずっと遠くへと伸びていた。どんな強風にも左右されない一直線の影というものが、邦彦には妙に不思議な現象に思われた。 ポールが揺れないかぎり、影も決して揺れはしないのだと、邦彦は新しい物理的法則を発見したかのように、その三本の黒い線を見つめた。
宮本 輝「道頓堀川(新潮文庫)」に収録 ページ位置:10% 作品を確認(amazon)
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影
運動場
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前後の文章を含んだ引用
......うですか」「大晦日だろうが、元日だろうが、雨が降ろうが霰が降ろうが、そんなことまるで関係ないんですなあ。ボールを目的のところに蹴り込むことが大事なんですから」 競技場を挟んでちょうど真向かいにあたる観覧席の上段に、三本のポールが立っていて、それが邦彦と老人のいる場所まで長い影を落としていた。三本の影は、楕円形の競技場の中心を貫いて、邦彦の背後のまだずっと遠くへと伸びていた。どんな強風にも左右されない一直線の影というものが、邦彦には妙に不思議な現象に思われた。 ポールが揺れないかぎり、影も決して揺れはしないのだと、邦彦は新しい物理的法則を発見したかのように、その三本の黒い線を見つめた。光源があるあいだは、風も冷気も、走り過ぎて行く人間の闘魂も、その影の形を消してしまうことはない。そんなことを考えながら邦彦は、鼻づらをぐいぐい押しつけてくる犬の......
単語の意味
妙(みょう)
妙・・・とてもいい。非常に優れている。または、不思議、奇妙なこと(さま)。
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影の表現・描写・類語(光と影のカテゴリ)の一覧 ランダム5
その建物は裏側から月光を受け、暗い複雑な影を折りたたむ
三島由紀夫 / 金閣寺 amazon
影が病んでいるように不気味に黒く揺れる
原田 康子 / 挽歌 amazon
低地を距てた洋館には、その時刻、並んだ蒼桐 の幽霊のような影が写っていた。
梶井基次郎 / 冬の日
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運動場の表現・描写・類語(店・施設のカテゴリ)の一覧 ランダム5
楕円形 ですり鉢 状になった観覧席
宮本 輝「道頓堀川(新潮文庫)」に収録 amazon
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「光と影」カテゴリからランダム5
線香花火のようにそれらの文句が点 いたり消えたりした。
宮本百合子 / 伸子
窮屈な部屋の天井からぶら下がった裸電球は、真下を 微かに照らすだけで本棚に並べられた背表紙の文字を一つも読ませなかった。
又吉直樹「劇場(新潮文庫)」に収録 amazon
「店・施設」カテゴリからランダム5
がらんとした旅館の一室。清浄な蒲団 。匂 いのいい蚊帳 と糊 のよくきいた浴衣 。
梶井基次郎 / 檸檬
そのカフェは、温室じたての建物のなかにあった。
吉本 ばなな「アムリタ(下) (新潮文庫)」に収録 amazon
(歴史のあるぼろホテル)人々の思いや時の残滓が、その床の軋みのひとつひとつに、壁のしみのひとつひとつに留まっていた
村上 春樹 / ダンス・ダンス・ダンス(下) amazon
人里離れた奥深い渓谷の底にしっかりへばりついた、執拗な貝殻のかたまりのような旅館
島尾 敏雄 / 出孤島記 amazon
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