楕円形 ですり鉢 状になった観覧席

風はすり鉢状の観覧席の中ほどで、 渦 を巻いていた。

ボールを 蹴る音や選手たちの怒鳴り声や、甲高いホイッスルの音や、耳元でぐるぐる 捩ねじれながら吹きすぎていく風の音やらが、真冬の夕暮の 凛々 たる落日に包まれて、邦彦以外誰もいない観覧席全体を、逆に何か底知れぬ 静謐せいひつ で満たしていた

（夕方、競技場の影）競技場を 挟んでちょうど真向かいにあたる観覧席の上段に、三本のポールが立っていて、それが邦彦と老人のいる場所まで長い影を落としていた。三本の影は、楕円形の競技場の中心を貫いて、邦彦の背後のまだずっと遠くへと伸びていた。どんな強風にも左右されない一直線の影というものが、邦彦には妙に不思議な現象に思われた。 　ポールが揺れないかぎり、影も決して揺れはしないのだと、邦彦は新しい物理的法則を発見したかのように、その三本の黒い線を見つめた。

イルミネーションにまみれた闇

日の射し込んでいる郵便局は絶えず扉が鳴り、人びとは朝の新鮮な空気を撒（ま）き散らしていた。

人気（ひとげ）のない廊下を歩いて行った。廊下は僕にはホテルよりも監獄らしい感じを与えるものだった。

（高級レストラン）サービス係がいちいち椅子を引いてくる

「まるで蜂の巣のようです。それに皆が女王蜂だから……」