海水の色が、暗い鋼の色から少しずつ淡い緑のまざった青へ変化して、ざわざわと鍋の中で沸騰するアクみたいに見えてくると、もう春だった

よく晴れたいい天気だった。寒さも身を潜め、土からはぽかぽかとした暖かい空気が湧き上がっているようだ。

早春の陽を浴びて水がぬるむ

早春を告げるような大雪

朝夕の空の模様が春めいて来た事をまざまざと思わせる。北西の風が東に回るにつれて、単色に堅く凍りついていた雲が、蒸されるようにもやもやとくずれ出して、淡いながら暖かい色の晴れ雲に変わって行く。

空には雲ひとつない。それでいて全体がぼんやりとした春特有の不透明なヴェールに被われていた。その捉えどころのないヴェールの上から、空の青が少しずつ滲み込もうとしていた。日の光は細かな埃のように音も無く大気の中を降り、そして誰に気取られることもなく地表に積った。

空の色が冬の間に腐ったような灰色を洗い流して、日一日緑に冴えていく

ぼんやりとした花曇りの白い空

朝夕の空の模様が春めいて来た事をまざまざと思わせる。北西の風が東に回るにつれて、単色に堅く凍りついていた雲が、蒸されるようにもやもやとくずれ出して、淡いながら暖かい色の晴れ雲に変わって行く。

頼りないほど青く透けた三月中旬の空

三月末の夕方の空はなごやかだった。庭先の一重（ひとえ）桜のこずえには南に向いたほうに白い花（か）べんがどこからか飛んで来てくっついたようにちらほら見え出していた、その先には赤く霜枯れた杉森（すぎもり）がゆるやかに暮れ初（そ）めて、光を含んだ青空が静かに流れるように漂っていた。

とにかく、春の勢いはすごい。これまではモノクロにくすんでいた画面に、一瞬で色がつくみたいだ。どんな特撮技術を使っても、この鮮やかな景色の変化は表現できないだろう。 　変化は景色だけじゃなく、においにも音にも表れる。冬のあいだは硬く冷たく流れる川が、草木が芽吹きはじめるのとほぼ同時に、さらさらと優しい音に変わる。水は澄みわたって、甘い香りがする。金色に輝く川底の砂に、透明なメダカの群の影が映っているのを発見し、俺は思わず声を上げてしまった。 　なんかこう、春はすべてにメリハリがつくって感じだ。繁ばあちゃんの大群に包囲されてるのが冬だとしたら、百人の直紀さんがバイクに乗って、山を駆けめぐってるのが春だ。張りがあって騒々しい。

花の五月

春の訪れを告げる雪解けの水が湿原や川にあふれてくる

ランマンと花の咲き乱れた四月の明るい空よ、地球の外には、颯々（さつさつ）として熱風が吹きこぼれて、オーイオーイと見えないよび声が四月の空に弾（はじ）けている。

みじかい二月の午後がくれて窓側だけに白い微光が残っていた。

肺をいったん空っぽにし、少し時間をおいて新しい空気で満たした。冷ややかな空気が無数の棘となって、胸を内側から刺した。

（冬の川）雲母（きらら）を浮かしたような薄氷が張っていた。

森の上に弱々しい陽光が落ちる

今年の冬は暖かかった。書斎の暖房は、ほとんど小さな電気ストーブ一個ですませた。