道詮和尚は、まるで桃いろのお菓子みたいに見えた。

和尚と言ってもなんだか頼りない男

この僧は六十近い、丸顔の、達磨を草書に崩したような容貌を有している。

老僧の、枯れ木のように無抵抗な姿

轟くような大声で話す和尚には、私の心にひびくやさしさがある。世の常のやさしさではなく、村はずれの、旅人に木陰の憩いを与える大樹の荒々しい根方のようなやさしさである。

老人は山の老樹のように、あるいは苔むした岩のように、この景色の前にただそこに置かれてあるのだ。

猿のような痩せかたをしている老人

声量は小さくないが、祖父に向けて言いさえしなければ祖父には聞こえない。祖父の耳が単一指向性マイクみたいになったのは聴力の衰えではなく、言語処理能力の衰えによるもののようだった。

お婆さんがびっくり仰天して歯のない口をぽかんと開け

重役風情の痩せた老人

曰（いわ）くありげな美しい老女の佇まい

日毎に老いの傾斜を転げ落ちる

田辺弁護士は、六十歳という年齢のせいかいかにも弱々しく、みすぼらしく見える。被告側の席に置いたよれよれのカバンも一層、その印象を濃くしていた。

荘厳な老人の声音

円熟した年齢が聡明さに暖かさを添える

不可解なウイルスの登場は、医学者に恐怖よりも高揚感をもたらす

（機関士）汽車は、ずっと警笛を鳴らし続けていた。 　ポッポヤはどんなときだって涙のかわりに笛を吹き、げんこのかわりに旗を振り、大声でわめくかわりに、喚呼の裏声を絞らなければならないのだった。

老僧の、枯れ木のように無抵抗な姿

女が専門の料理人になれないのは、ここのところであって、毎日、神経を一点に集中し、昨日も今日も変りない美味さで料理をつくることが、実は、生理的・体質的に、女にはむりなのである。 　女の血は、現実にのぞんでたちまちに変り、うごく。 　家内なども、何かおもしろくないことがあって、むしゃくしゃしているときなどは、塩加減も何もあったものではない。 　今朝の味噌汁は昨日の味噌汁ではなく、昨日うまくたけた飯が今日はまずい。 　これが、男から見た女だ。

（ある書生）彼は独自の世界観や人生観をもち、心は空中の 楼閣 に住み、幽玄な知識の言葉を食べて生きている。