雨あられの砲弾の中

さっきと同じように、蟬が乾いた音をたて鳴きつづけている。風はない。さっきと同じように一匹の蠅が自分の顔の周りを鈍い羽音で廻っている。外界は少しも違っていなかった。一人の人間が死んだというのに何も変らなかった。

雨あられのように降る弾幕の間をかいくぐる

雨のふるよなてっぽう玉のくる中に

艦砲射撃と爆撃で鉄の雨を降らせる

あられのような弾丸がそそぐ

爆弾の雨を降らせる

米空軍の空襲たけなわな東京や横浜の焼けただれた風景や、もはや「敗戦必至」となった絶望感とが、嘘のように感じられた。

（戦車の光）前方の林に、巨人の眼のように輝いて動く、数個の光源が並んでいる

いつ戦火が頭上へ降りかかっても不思議でない切迫した状況

雨のごとく弾が降ってくる

顔つきを一変させて、慌てて背後を振り返りかけた。家族に助けを求めようとする仕草のように、庄司には見えた。

照りつける太陽のもと、白い砂の上に寝ころんで、なにもかも忘れてぼんやりすごしたらどんなに幸せなことだろう

無事に帰れますようにと私は何かに祈らずにはいられなかった。

高速道路が壊滅的な渋滞状態に陥って、足止めを食らっている。

尾道へ戻った事を後悔する。 　ふるさとは遠くにありて想うものなり。たとい異土（いど）の乞食（かたい）となろうともふるさとは再び帰り来る処に非ずの感を深くするなり。

私にとって戦前は、軍靴の音が響いてくるイメージしかありませんでした

家族という、確かにあったものが年月の中でひとりひとり減っていって、自分がひとりここにいるのだと、ふと思い出すと目の前にあるものがすべて、うそに見えてくる。

木山省吾の死を知ったときには、すべてを失ったように慟哭した

枯れた花が落ちるように、あっけなく息を引き取る

刑場の露と消える

椅子を蹴った。椅子が揺れる。男の身体が落下し、途中でロープにより引っ張られる。天井の軋む音がする。《…略…》首に、黄色いビニール製のロープが食い込む。下顎から、耳の後ろへとロープの輪が締まる。鼻が、息を吸い込むために震えた。喘ぎ声が出る。　足が前後に動く。蹴られた椅子が倒れる。水泳の訓練を行うかのように、足は揺れる。揺れは速い。ほどなく、遅くなる。口から涎がこぼれた。泡が、喘ぎ声とともに、唇の端からこぼれる。両手が、首に食い込んだビニールロープに伸び、皮膚とロープの隙間を探している。爪が首もとの皮を引っ掻いた。　血圧が上昇したのだろう、顔面と眼球が赤く、滲んだ。首のまわりが膨らむ。痙攣がはじまる。身体から力が抜ける。顔面は色を失い、みるみる白で染まっていく。ふわっと浮かぶように力が抜け、身体が左右に揺れる。