さっきと同じように、蟬が乾いた音をたて鳴きつづけている。風はない。さっきと同じように一匹の蠅が自分の顔の周りを鈍い羽音で廻っている。外界は少しも違っていなかった。一人の人間が死んだというのに何も変らなかった。
遠藤周作「沈黙(新潮文庫)」に収録 ページ位置:58% 作品を確認(amazon)
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死人・遺体
人の死に目に会う
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前後の文章を含んだ引用
......うどうでもよかった。 むきだしの中庭に白い光が容赦なく照りつけている。真昼の白い光の中で地面に黒い染みがはっきり残っていた。片眼の男の死体から流れた血である。 さっきと同じように、蟬が乾いた音をたて鳴きつづけている。風はない。さっきと同じように一匹の蠅が自分の顔の周りを鈍い羽音で廻っている。外界は少しも違っていなかった。一人の人間が死んだというのに何も変らなかった。司祭は格子を握りしめたまま、動転していた。 彼が混乱しているのは突然起った事件のことではなかった。理解できないのは、この中庭の静かさと蟬の声、蠅の羽音だった。一......
単語の意味
蝉・蟬(せみ)
蠅・蝿(はえ)
蝉・蟬・・・1.セミ科の昆虫を総称。夏に鳴く虫の代表。羽を畳んで木に止まり、雄は高い声で鳴きたてる。幼虫は数年かかって成虫になるが、成虫の寿命は10日から20日と短い。
2.高いところに物を引き上げるときに使う、小さな滑車。
2.高いところに物を引き上げるときに使う、小さな滑車。
蠅・蝿・・・ハエ目ハエ亜目ハエ下目に属する昆虫の総称。羽は二枚で触角は太くて短い。食べ物などにたかり、伝染病を媒介する。長い口先を使って液体などを舐める。幼虫はいわゆる「うじ」。不快なもの、五月蝿(うるさ)いものの代名詞にも使われる。
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死人・遺体の表現・描写・類語(人の印象のカテゴリ)の一覧 ランダム5
(生きていたときのような華やかさは無く、)彼女は凍りついた無感動とでもいったようなものを身に纏っているだけだった。
村上 春樹 / ダンス・ダンス・ダンス(上) amazon
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人の死に目に会うの表現・描写・類語(生と死のカテゴリ)の一覧 ランダム5
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(団体行動)統率が取れている軍人にも見えた。
伊坂 幸太郎「陽気なギャングが地球を回す (祥伝社文庫)」に収録 amazon
アメーバのように増殖を続ける人間の塊が一斉に動き出す
荻野 アンナ / 背負い水 amazon
(赤ん坊の名前)「あすか」とか「まどか」とか、ひらがなで書く柔らかい名前がいいな……
雫井 脩介「火の粉 (幻冬舎文庫)」に収録 amazon
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永久に、中有 の闇へ沈んでしまった。
芥川龍之介 / 藪の中
(死人の顔)なだらかな傾斜をもっていた荒井幸夫の顎は、色を変え、うすっぺらになり、そこには既に筋肉の力が働いていないことを示していた。
野間宏 / 崩解感覚「暗い絵・顔の中の赤い月 (講談社文芸文庫)」に収録 amazon
(遺品のかんざしを)見つめていると、ありし日の女の姿が、ぼっと、眸にひろがって来る気さえする。
吉川英治 / 無宿人国記
(白いソフトボールのような死)「そういうのをメスで切り開いてみたいって気がするのよ。死体をじゃないわよ。その死のかたまりみたいなものをよ。そういうものがどこかにあるんじゃないかって気がするのね。ソフトボールみたいに鈍くって、やわらかくて、神経が 麻痺 してるの。それを死んだ人の中からとりだして、切り開いてみたいの。いつもそう思うのよ。中がどうなってるんだろうってね。ちょうど歯みがきのペーストがチューブの中で固まるみたいに、中で何かがコチコチになってるんじゃないかしら? そう思わない? いや、いいのよ、返事しないで。まわりがぐにゃぐにゃとしていて、それが内部に向うほどだんだん硬くなっていくの。だから私はまず外の皮を切り開いて、中のぐにゃぐにゃしたものをとりだし、メスと ヘら のようなものを使ってそのぐにゃぐにゃをとりわけていくの。そうすると中の方でだんだんそのぐにゃぐにゃが硬くなっていってね、小さな芯みたいになってるの。ボールベアリングのボールみたいに小さくて、すごく硬いのよ。そんな気しない?」
村上春樹 / ねじまき鳥と火曜日の女たち「パン屋再襲撃 (文春文庫)」に収録 amazon
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