ハンカチのイニシャルは見事だった。安っぽい一枚の布切れが、片隅にたった二つ、文字を刺繡されただけで優美な服飾品に変身していた。
小川 洋子 / 亡き王女のための刺繡「口笛の上手な白雪姫」に収録 ページ位置:91% 作品を確認(amazon)
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ししゅう
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前後の文章を含んだ引用
......した。「もちろん」 りこさんは言った。 しかし私の一番の心配は、母にばれることではなく、刺繡が綺麗すぎて先生に怪しまれるのではないか、という問題だった。それほどハンカチのイニシャルは見事だった。安っぽい一枚の布切れが、片隅にたった二つ、文字を刺繡されただけで優美な服飾品に変身していた。 私はうっとりとしてそのイニシャルに触れた。ステッチの種類も糸の選択も説明書にあるとおり、完全だった。きちんとアイロンが当てられ、四つ折りにされ、スチームかりこ......
単語の意味
優美(ゆうび)
服飾(ふくしょく)
服飾品(ふくしょくひん)
優美・・・上品で、控えめな美しさを持っているさま。美しさの中にも落ち着きがあり、好ましい感じを与えるさま。
服飾・・・衣服と飾り(アクセサリー)。人が身につけるものすべてを指す。
服飾品・・・服装の飾りとするもの。服装を引き立たせるための付属品。ブローチ・ハンドバッグ・手袋・ベルト・スカーフ・イヤリング・指輪など。
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ししゅうの表現・描写・類語(趣味・娯楽のカテゴリ)の一覧 ランダム5
(イニシャルのししゅうがほどける)ふと、爪の先が糸に引っ掛かった。ほんの 微かな一瞬だった。はっと思う間もなく、するすると糸が解けていった。あらかじめ定められた決まりに従うように、りこさんの手つきをなぞるように、アルファベットはごく自然に一本の糸に戻っていった。《…略…》小さな針の穴の連なりだけを残し、私の名前は宙に溶けて消えてしまった。
小川 洋子 / 亡き王女のための刺繡「口笛の上手な白雪姫」に収録 amazon
金具の本格的な銀色がお気に入りだった。木枠がギシギシと 軋み、もうこれ以上は我慢できないといった様子で布が目一杯張り詰められてゆく、その感触がたまらなかった。《…略…》木枠の軋む音がいよいよ苦しげになってもまだ私はあきらめず、更にもう一回転金具を回せないかと試みた。枠が割れるのと布が破れるのとどちらが先か、ぎりぎりのところまで指先に力を込めた。
小川 洋子 / 亡き王女のための刺繡「口笛の上手な白雪姫」に収録 amazon
りこさんが木枠の金具を締め上げ、針を通してゆくと、誰にも真似できない世界がそこに浮かび上がってきた。ワンピースの胸元に咲くお花畑も、ロンパースのお尻で向かい合うリスも、上から付け足したのではなく、布の向こうに隠れていたものたちが何かの拍子にこちら側へ現れ出てきたという自然さをまとっていた。
小川 洋子 / 亡き王女のための刺繡「口笛の上手な白雪姫」に収録 amazon
ハンカチのイニシャルは見事だった。安っぽい一枚の布切れが、片隅にたった二つ、文字を刺繡されただけで優美な服飾品に変身していた。
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