あることを考え、また別のことを考えるそのわずかな継ぎ目から、考えてはいけないことや考えたくないことがちろちろと這い出てきて十和子を悩ませる。

深い霧のなかを影法師のように過ぎてゆく想念がだんだん分明になって来る。 　彼の視野のなかで消散したり凝聚（ぎょうしゅう）したりしていた風景は、ある瞬間それが実に親しい風景だったかのように、またある瞬間は全く未知の風景のように見えはじめる。そしてある瞬間が過ぎた。――喬にはもう、どこまでが彼の想念であり、どこからが深夜の町であるのか、わからなかった。暗のなかの夾竹桃はそのまま彼の憂鬱であった。物陰の電燈に写し出されている土塀、暗と一つになっているその陰影。観念もまたそこで立体的な形をとっていた。 　喬（たかし）は彼の心の風景をそこに指呼することができる、と思った。

そのありさまが影絵のように 髣髴ほうふつ と私の心に浮かんだ。

少女の日の思い出が、ふっと花の匂いのように横切ってきて、

ふと姉の姿が物の匂いのように心に浮ぶ。

閃くように思い出す

（刀での合戦中に）太刀からほとばしる火花のように、時々心にひらめいた。が、ひらめいたと思ううちに、刻々迫ってくる生死の危急が、たちまちそれをかき消してしまう。

この偶然なことで、私は不意に啓示を得たのです。私は、はっとしました。頭の中に閃光を感じたとはこのことです。

少女の日の思い出が、ふっと花の匂いのように横切ってきて、

その時、生まれて初めて経験する、ある不思議な瞬間が訪れた。無残に踏み荒らされた砂漠に、一陣の風が吹き抜け、目の前に一本の真っさらな道が現われた。道の先には光がともり、私を導いていた。その中へ踏み込み、身体を浸してみないではいられない気持にさせる光だった。今自分は、閃きという名の祝福を受けているのだと分かった。

深い水の底から浮かんでくるように、考えがぽっかりと浮かぶ

奇跡のように答えがパッと閃く

市場でたくさん積みあげた野菜や、種類のちがった魚や肉をみれば、献立のアイディアもたやすく頭に浮かんでくる

演技をしても無駄です。僕の目はその裏側を見ている。

言葉に含まれている真実の量を測る

憑いていた狐が落ちたように自分のしてきたことが阿呆らしくなる

脳みそが熱くなってきて

ミステリーを読んでいるようだった。 　頭の中で、一個一個の点が線でつながり始めた。

（警察の酒田から昔の恋人が行方不明と聞かされて）いきなり真空状態のカプセルに封じ込められてしまう。酒田の声は聞こえている。行方不明。失踪届。停止した頭のどこかに、それらの言葉が意味も成さないまま引っかかっている。行方不明？　失踪届？　行方不明？　失踪届？――、誰が？　黒崎が？

それが真物であることを彼は地球の存在のように疑っていなかった。