その白さの中、首元や袖口やソックスの折り返しやよだれかけの縁に、更に深い白色の花が、たった今開いたばかりとでもいうような 瑞々しさで刺繡されていた。
小川 洋子 / 亡き王女のための刺繡「口笛の上手な白雪姫」に収録 ページ位置:71% 作品を確認(amazon)
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ししゅう
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......セージカードが添えられていた。 隅から隅まで何もかも全部が真っ白だった。これを汚さないで家まで持って帰るには、どうしたらいいのだろうかと不安がよぎるほどだった。その白さの中、首元や袖口やソックスの折り返しやよだれかけの縁に、更に深い白色の花が、たった今開いたばかりとでもいうような瑞々しさで刺繡されていた。流線型をした六枚の花弁を持つ、小さな花だった。それらが茎を交差させ、花びらを重ね合わせて幾つも連なりながら、生まれたての赤ん坊を祝福する時を待っていた。「何てい......
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ししゅうの表現・描写・類語(趣味・娯楽のカテゴリ)の一覧 ランダム5
(イニシャルのししゅうがほどける)ふと、爪の先が糸に引っ掛かった。ほんの 微かな一瞬だった。はっと思う間もなく、するすると糸が解けていった。あらかじめ定められた決まりに従うように、りこさんの手つきをなぞるように、アルファベットはごく自然に一本の糸に戻っていった。《…略…》小さな針の穴の連なりだけを残し、私の名前は宙に溶けて消えてしまった。
小川 洋子 / 亡き王女のための刺繡「口笛の上手な白雪姫」に収録 amazon
りこさんが木枠の金具を締め上げ、針を通してゆくと、誰にも真似できない世界がそこに浮かび上がってきた。ワンピースの胸元に咲くお花畑も、ロンパースのお尻で向かい合うリスも、上から付け足したのではなく、布の向こうに隠れていたものたちが何かの拍子にこちら側へ現れ出てきたという自然さをまとっていた。
小川 洋子 / 亡き王女のための刺繡「口笛の上手な白雪姫」に収録 amazon
金具の本格的な銀色がお気に入りだった。木枠がギシギシと 軋み、もうこれ以上は我慢できないといった様子で布が目一杯張り詰められてゆく、その感触がたまらなかった。《…略…》木枠の軋む音がいよいよ苦しげになってもまだ私はあきらめず、更にもう一回転金具を回せないかと試みた。枠が割れるのと布が破れるのとどちらが先か、ぎりぎりのところまで指先に力を込めた。
小川 洋子 / 亡き王女のための刺繡「口笛の上手な白雪姫」に収録 amazon
それぞれに施された刺繡の手触りが 蘇ってくる。あるものは袖口の内側に遠慮がちに隠れつつ、守護天使のように私を見守り、またあるものは胸元の一番目立つ場所に陣取り、邪悪なものを追い払う護符となっていた。
小川 洋子 / 亡き王女のための刺繡「口笛の上手な白雪姫」に収録 amazon
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目にびかびかする色の立ち代り、人の転換される画面のテレビ
川上 未映子「乳と卵(らん) (文春文庫)」に収録 amazon
(ネットサーフィン)動画共有サイトでアイドルのライブ動画をひたすら渡り歩く
朝井 リョウ「武道館 (文春文庫)」に収録 amazon
TVはまるで友達のように思えるけれど、実は壁と大差ない、なぜならもし強盗が入ってきて部屋の主が殺されても、TVは何事もなく映り続けるから
吉本 ばなな「アムリタ〈上〉 (新潮文庫)」に収録 amazon
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